第34話 消滅 そして……
―― 一体は灼熱の炎に焼かれ……
―― 一体は聖撃による爆発により……
―― そして、もう一体は何度暗黒の吐霧を放っても無傷の相手に動揺し……
三者三様の戦いは終焉を迎えようとしていた ――
戦乙女闘式は、灼熱の炎が絶対防御にも最強の攻撃にもなるファイリーの今出来る最大の攻撃スタイルだった。ナイトメア戦の敗北後、ファイリーは和馬の使役による妖気力精錬を磨き、このスタイルになる事で、龍炎刃の炎を常に纏える態勢にまで仕上げていた。
「和馬! 今だ!」
「おっしゃー! 攻撃透過! 接続! 熱くなれ! 透過焔刃! 聖炎投擲!」
和馬が放ったのは短剣ではなく、なんとブライトブレイドだった。聖剣が灼熱の刃で焼け爛れた胸を貫く!
「火焔嵐流!」
続け様にファイリーが炎の渦を放ち、グランドグールを巻き上げる! 膨大な聖なる力と灼熱の炎により、舞い上がる炎の中、グランドグールの身体は溶け、消滅していった……
クレイは、二十年前のダークドラゴンとの戦いを終え、最凶の相手を一人でも倒せるように鍛練に鍛錬を重ねていた。戦術を極め、能力を高め、聖戦士の基本攻撃である聖なる迎撃を主体とした、何十ものオリジナルスキルを作り出した。目にも止まらぬ速さで放たれる内部破壊は、グランドグールの再生をも追いつかない連続聖爆撃となっていた。
「ぐ、ぐごごごご……」
最早原型を留めていないグランドグールが、暗黒の吐霧を吐く事は出来なかった。否、クレイがグランドグールに暗黒の吐霧を吐く事を許さなかったのである。
「終わりだよ、グランドグール……聖爆壊撃!」
クレイのレイピアから集積された白い輝きがやがて一筋の光となり、グランドグールの胸に照射される。
光はだんだんと大きくなり、やがて、グランドグール全体を包み込む。
……光が消えた後、そこにはグランドグールの姿はなかった。
現“聖の守護部隊”隊長、ルーディス……彼は二十年前、目の前で父レインを亡くしていた。父の洗練された双剣の攻防でも、ダークドラゴンによる暗黒の吐霧を防ぐ事は出来なかった。彼は彼なりに努力を重ね、どうしたら最悪の技を打ち破る事が出来るか考えた。
そんな中、ある日、妖魔の棲家へ討伐に向かった際、二つの双剣に出会ったのだ。
侵食刀剣と転換刀剣。
若干、曲刀のように曲線を描いているところを除けば、さほど見た目も普通の剣と変わらない。聖撃も普通の剣と変わらず放つ事が出来る。が、この二つの剣は妖刀だった。
負の妖気力を食らわなければ、普段は自身の妖気力を少しずつ分ける必要があるため、使用者は副作用により、刀剣を携えている間は眠たくなってしまうリスクがあった。それでもルーディスは、この双剣を装備する事を迷わず選んだ。
負の妖気力を食らう剣と、その奪った負の妖気力を正の妖気力へと転換し、自身の攻撃力へと変換出来る剣。
そう、この剣はまさにグランドグールを倒すためにあるような剣だった。
侵食刀剣が吸収した膨大な力を反転させた転換刀剣による攻撃は、グランドグールの負の妖気力が強ければ強い程、敵へ返す聖撃のダメージが大きくなる。
暗黒の吐霧がルーディスに届く事はなく、やがてルーディスは最後の聖撃を加える。
「聖なる迎撃! 旋回無双――凪――」
キーン――という音が一瞬だけ鳴り響き……ルーディスとグランドグールが居る空間だけが静寂に包まれた。グランドグールの五メートルはある巨大な身体が一瞬にして、三枚下ろしとなり、地面に落ちる事なく……そのまま光に包まれ消滅した。
三体のグランドグールは、同時に戦場から消滅したのである ――
「お、おい、どうなったんだ……」
息を呑んで戦いの行く末を見守っていた隊員の一人が呟く。
「そ、そんなの俺も分からねーよ!」
「見て! 三体のグランドグールが……消えたわ?」
「本当だ……た、隊長は無事か?」
「た、たいちょーーーー」
やがて、隊員達から隊長ー、ルーディス隊長ーと隊長を呼ぶ声があがった。グランドグールを消滅させたルーディス、そしてクレイ、ファイリーと和馬が隊員達の傍へとゆっくり近づいていった。
「はぁ、眠い……みんな終わったよ……おやすみなさい……」
ルーディスは立ったまま寝ようとしていた。この眠気があの妖刀の副作用だという事を誰も知らない。
「や、やったーーー! いつもの隊長だーーー!」
「俺達の隊長が還って来たんだーーーー!」
おおおおおーーと戦場に歓声が湧きあがった。聖の守護部隊勝利の瞬間だった。クレイやファイリー、和馬も顔を見合わせ笑顔になる。
「やったな、君達も頑張ったな!」クレイが声をかける。
「当たり前だろ! あたいを誰だと思ってるんだ?」笑顔で応えるファイリー。
「俺がこうやってファイリーと肩を並べて強敵と戦えたのも、クレイさんのお陰です! ありがとうございました」和馬が頭を下げた。
「いや、和馬君、君の才能があってこそ、今回の勝利に繋がったんだよ。自信を持つといい」
クレイが和馬の頭に手をやった。
「みんな、聞いてくれー!」眠たそうにしながらもルーディスが声をあげる。静かになる隊員達……
「今回の勝利は、ここに居る元聖の討伐部隊隊長であるクレイさん、こちらの赤眼妖精さんと契約主である和馬君の力があってこそ勝ち取れた。そして、戦いにより命を落としたゴンドーやミディア、たくさんの仲間達の犠牲の上に今の僕達が居る事を忘れないで欲しい。彼等に、そして、仲間達の魂に敬礼!」
ルーディスは緊急時には、クレイ達が動いているという事を、唯一事前にアラーダから聞いていた。だからこそ、ファイリーや和馬の存在まで認識していたのである。
一斉に隊員達が敬礼する……中にはゴンドーやミディア、命を落とした仲間達の事を思い、目を閉じる者、すすり泣く者も居た……。
「くそ、こうなったのも全部ナイトメアのせいだ……」和馬も悔しがる。
「大丈夫だ、あちらにもエイトが居る。心配はいらないさ」
クレイが和馬を見てそう応えた。
「リンクがあたいの代わりにやつを倒してくれるさ」
ファイリーも続いた。
「そうだよな、今はあいつらを信じるしかねーな……」
―― 雄也、優斗……絶対死ぬんじゃねーぜ……
和馬はそう祈る。
★ ★ ★
アルティメイナの古城は、すんなり雄也達を受け入れた。
禍々しい妖気が漂い、季節がひっくり返ったかのような寒気がするひんやりとした空気は変わらない。だが、城内に入っても、大量のインプやグールが襲って来る、新たな罠が雄也達の行く手を阻むというような事はなく、むしろ、アルティメイナ城を初めて訪れた時よりも、簡単に奥まで進む事が出来た。やがて、前回ナイトメアに打ちのめされた吹き抜けまで辿り着く。
「なんか……すんなりここまで来ちゃったな……」雄也が呟く。
「これ……逆に罠なんじゃないかって思うよ……」優斗も心配している。
「恐らく、あの階段の上にナイトメアは居る筈だよ。優斗君とブリンクはレイアと結界の準備をお願いします」エイトが前を見据えたまま促す。
「かしこまりました」
「おーけーにゃー」
「今回は動けるように頑張るよ……」
レイア、ブリンク、優斗が順番に返事をした。
「皆さん、じゃあ階段を上りますよー」
リンクが小声で合図を送り、皆警戒しながら、吹き抜けから王の間へ続いているであろう階段を上った。
しかし、階段を上り切った時、一同は驚愕する事になる。そこにはかつてアルティメイナ城にあった王の間はなく、まるで、魔界にある山の頂上を思わせる広い土の地面が広がっていた。
紫と黒と灰色が入り混じったような雲が上空を漂い、この階だけが城とは全く異空間の世界だった。何もない大地の上には、雄也達が上って来た階段と、空間の奥には、恐らくナイトメアが座るであろう玉座と、その隣に壁がない状態で扉だけが一つ設置されている。
「な、なんなんだ……ここは?」雄也が思わず口にする……
―― どうだ? ワシ好みに部屋を改造しておいたのだよ。
「ナ、ナイトメア!」エイトが叫んだ。
見ると誰も居なかった筈の玉座にいつの間にかナイトメアが座っていた。
「本当に再びワシに殺されに来るとは面白い奴等よ。今回はワシも随分と楽しませてもらった。お礼をせねばならんのぅ……」ナイトメアがゆっくり玉座から腰をあげ、立ち上がった。
「貴方の悪事はここまでなんです! 観念するのです!」リンクがナイトメアに向かって叫んだ。
「戦う前に聞いておくぞ……人間界から攫った子供はどこだ?」エイトが代表してナイトメアに尋ねる。
「……その質問にワシが答えると思うか?」ナイトメアがエイトを見据える。
「どうせ、僕達を滅ぼすつもりなら、教えてもいいんじゃないかな?」笑みを浮かべて返すエイト。
「ふん……まぁいい、心配せんでもガキは無事だよ。ほれ、この扉の向こうで眠っておるよ。助けたいのならワシを倒して行くといい」
ナイトメアの言う事が本当なら、あの一つだけある扉の向こうに子供が居るらしい。嘘かもしれないし、罠かもしれない。だが、今は目の前のナイトメアを倒して、子供を助けるしかないのだ。
「教えてくれてありがとう! 今は子供が無事だと信じる事にするよ」
笑顔で返事をするエイト。
皆、覚悟を決めた表情をしていた。
「さて……そろそろ始めようとするか……お前達が絶望の前にどうあがくか、せいぜいワシに見せるがいい!」
次の瞬間、ナイトメアから強力な負の妖気力が発せられた ――




