第33話 グランドグールとの聖戦
「―― 熱くなれ! 透過焔刃! 燃やせ、焔刃投擲!」
和馬が放った炎を纏った短剣がグランドグールの片目を潰す! ぐぉおおおという雄叫びをあげながら、潰された左目に刺さる燃え上がる短剣を、己の左腕で引き抜こうとするグランドグール。
「我が剣よ! 炎を纏え! 火焔の刃!」
視界が遮られた左側からすかさず飛び上がり、左腕の手首を焼き切るファイリー。手首が落ちた衝撃でドーンと地面が抉れる。
「もう一発! 燃やせ、焔刃投擲!」
和馬とファイリーの流れるようなコンビネーション攻撃が続く。和馬が投げつけた短剣はグランドグールの右目をも潰す。と同時に炎を纏った刃で、ファイリーが右手首をも焼き切っていく。
しかし、両手首を失ったグランドグールはそれには構わず、耳を塞ぎたくなるほどの雄叫びと同時に、暗黒の吐霧を吐いた。吐いた先の大地が暗闇に包まれる! やがて、短剣がグランドグールの身体によって溶かされ、両目、両手首が再生された。が、暗黒の吐霧を吐いた方向には、既にファイリー、和馬の姿はなかった。
「どこ狙ってるんだ、グランドグールさんよ?」
和馬がブライトブレイドを構えた。ゆっくり呼吸を整える。
「ファイリー同時に行くぜ!」
「おーけー相棒!」
「輝け、ブライトブレイド ―― 聖なる迎撃!」
「火焔の刃! 火焔一閃!」
刹那、グランドグールの両腕が同時に斬り落とされた。グランドグールは背後からの同時攻撃に何が起こったか戸惑い、二名の姿を確認するや否や発狂した。
「お、おい、クレイ元隊長とルーディス隊長はわかるんだが、あいつらは何者なんだ?」
「知らないのか? あれは炎刃の赤眼妖精だよ。燃えるような赤い髪と炎の剣。間違いねぇー、プレミア隊長と同じくらい強いと言われたあの妖精だよ」
三者の戦闘が開始された後、聖の守護部隊の生き残ったメンバーは、いつでも結界が発動出来る体勢のまま、暗黒の吐霧が届かない距離まで下がり、戦況を見守っていたのである。騎士の格好した隊員達がファイリーと和馬の戦いを見ながら会話していた。
「それはそうと、あの人間の青年は誰なんだ? どうして赤眼妖精と並んで戦ってるんだよ! 俺達でも手が出せなかった相手だぞ!」
隊員達は、人間の青年がグランドグールを相手に奮闘する姿を見て、驚きの表情を浮かべていた。
「いや、よく見ろ! あの剣!」
「本当だ! あれはプレミア隊長のブライトブレイドじゃないか!」
隊員達が、和馬の持っている剣に気づき始めた次の瞬間、和馬のブライトブレイドによる聖撃と、ファイリーによる炎刃の一閃がグランドグールの両腕を斬り落とし、轟音と雄叫びが戦場を駆け巡った。
「おぉー!」思わず感嘆する隊員達……
その時、ドーーーン! と別方向からも轟音が鳴った。
「あ、あれを見ろ!」
別の隊員が指差した先には……
「―― 聖なる迎撃! 内部破壊!」
捉えられない速度で連続でレイピアを突き刺すクレイ。突き刺した部分から爆発が起き、グランドグールの片腕、片足が一撃で捥げる。バランスを崩し、倒れる巨大な妖魔。欠けた部分を再生させようとするが……
「そうか、お前は再生するんだったな。じゃあ続けさせてもらうぞ?」
再生しようとする場所に構わず、連撃で顔、胴体、残りの腕と足とを次々と刺し、爆発と共にダメージを与えていく。グランドグールの再生が追いつかないのだ。
全体を再生させていたグランドグールはうねうねと蠢いていた。
「もう再生が追いつかないだろう? どうするよ、グランドグール!」
すると呼びかけに答えるかのように横たわった体勢のまま顔のあった部分のみが蠢き、倍速で再生された。そのまま雄叫びと共に暗黒の吐霧を放つ!
「顔だけ倍速で再生させただと! やるじゃねーか!」
そのまま漆黒の妖気に包まれ、クレイの身体がその場から消える。標的を倒したと確信したグランドグールは、うねうねと動き、足や腕の再生作業へを再開した。ゆっくり起き上がるグランドグール。
―― 俺が骨になったと思ったか?
刹那、背後から声をかけられる。
―― 聖なる迎撃! 五月雨!
グランドグールの背中に強力な連撃が放たれ、思わず前のめりになる巨体。暗黒の吐霧をまともに受けたかに見えたクレイの身体は、グランドグールの背後に移動していたのである。
「まぁ、今の能力は俺のオリジナルじゃあないけどな」
そう言いつつ再び内部破壊で両足を破壊する。再び倒れる巨大な肉体。
元隊長のクレイを、二十年の刻がさらに強くしていたのである ――
「ぐぉおおおおおおおおおお!」
「邪を受け止めよ! 聖騎士の盾!」
雄叫びと同時に放たれる暗黒の吐霧を受け止めるルーディス。
ここまでは今まで戦って来た聖の守護部隊隊員と一緒だった。
ルーディスの周囲が暗闇に包まれる。グランドグールは目の前の標的が骨と化す姿を想像した事だろう。或いは正と負の反発力で、対象が弾き飛ばされる姿を予想していたのかもしれない。
―― 負食せよ! 侵食刀剣!
暗闇が晴れた時、双剣を十字にしたまま防御の体勢をとっているルーディスの姿があった。
「ぐぉおおおおおおおおおお!」
何が起こったか分からないまま激昂するグランドグールは再び暗黒の吐霧を放つ……が、ルーディスが骨と化す事はなかった。
「本当はね、隊員達にはこの技を見せたくなかったんだよ。双剣を使い、流れるような動きで翻弄する姿しか今まで見せてなかったからね。この戦い方は綺麗じゃない」
そう言い放つと、ルーディスは双剣の鞘頭を合わせて独特の構えをとった。見ると、片方の剣が紫がかった色に変わっており、ルーディスが目を閉じ念じ始めると、同時にもう一方の剣に紫がかった色が移動していく……やがてもう一方の剣が光を放ち始めた。
―― ここからは僕の番だよ……裏還れ! 転換刀剣!
次の瞬間、明滅する剣で斬りつけるルーディス。斬撃の衝撃だけでグランドグールが吹き飛んでしまった。ルーディスは不敵な笑みを浮かべていた。
「もう、終わりかい?」
グランドグールが叫び声をあげる度に、暗黒の吐霧で周辺を負の妖気力で包み込む。しかし、ルーディスは左手に持つ剣で、負の妖気力を全て受け止め、右手に持つ剣で返しの斬撃を加えるのだった。初めて最凶の攻撃が効かない相手を前にして、グランドグールは明らかに困惑し、激昂していた ――
★ ★ ★
「和馬、今回の戦いで、あたいの力の一端を見せてやるよ!」
訓練の際、ファイリーに一度そう言われた和馬。
「今までの能力だけでも充分強いじゃねーか?」
ファイリーに問い返したのである。
「いや、ナイトメアと対峙して分かったよ。上には上がいるって。あたいはもっと強くならなきゃならないってね」
……
……
グランドグールは両腕を再生し、腕を斬り落とした相手を見据えた。
男は少しグランドグールから離れていたが、女妖精の様子がさっきと違っていた。燃えるような赤い髪はなびき、着ていたはずの赤色の鎧は、身体のラインが強調された橙と紅色の戦衣に変わり、赤いオーラを放っている。
明らかな妖気力の増大を感じ、腕を振り下ろすグランドグール。
しかし、ファイリーの身体に触れた瞬間、腕が燃え上がり、炎が腕全体を侵食していった。
「赤眼妖精、戦乙女闘式――第一の型 火焔の衣!」
目を閉じ、微動だにしないファイリーからは今までにない妖気力を感じる。
和馬でさえ、それが今までのものとは違うと感じていた。
和馬とファイリーの連携攻撃は、グランドグールが肉体を再生させる時間を作るためであり、ファイリーが戦乙女闘式へ変身するための布石だった。
「おっと、そのまま腕の炎が広がっていくのはさすがに可哀想だな」
そう言い終わるや否や、グランドグールの足下に居たファイリーの姿が消え、気づくと腕が斬り落とされていた。地面で燃え上がったままの腕がウネウネと蠢いている。
いつものように腕を再生させようとするグランドグール……が、なぜか再生されない!?
「ぐ、ぐぉおおおお、ごごごご」腕が再生されず、自身の腕がなくなっている、切り口を見つめる最凶の妖魔……
「す、すげー、ファイリー今何したんだ!」和馬が興奮して声をかける。
「やはりな、今のあたいの剣は一撃一撃が龍炎刃の炎を纏った一閃になるんだ。灼熱の刀身は、そのあまりの熱さに、焼き切ったと同時に敵の傷口をケロイド状に固めてしまう。再生しようにも一瞬で固まった箇所を二度と再生は出来ないさ」
「ぐ、ぐぉおおおおおおおおお」
怒りの表情でグランドグールが暗黒の吐霧を放つ!
「戦乙女闘式――第ニの型 火焔嵐流!」
暗黒の吐霧はファイリーへ届く前に、ファイリーの身体より舞い上がった炎の渦に巻き込まれ、やがて黒と赤の混じった激流が、まるで竜巻のように巻きあがった。火焔嵐流はそのままグランドグールをも巻き込み、その五メートルはあろう巨体までも上空に浮かせ、巻き上げ……
そして、真っ赤な炎に包まれたグランドグールが地面へ叩きつけられた!
ルーディスの侵食刀剣、「負食せよ!=(ふしょく)せよ!」はこの剣の能力から取った当て字です。
第25話以来再登場となる、ファイリーの龍炎刃ですが、本来は、龍の炎の力を一度刀身に溜め、対象へ一直線上に放つ能力です。
今回の戦乙女闘式では、刀身に炎を溜めた状態で斬りつける事が出来るようになっています。普段使っている火焔の刃とは比べ物にならない強さですね。




