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第29話 それぞれの思惑


 雄也達が寝静まった頃……


 王宮のとある一室、ランプの灯りだけが灯った薄暗い部屋に二つの影があった。


「久しいの……アラーダよ、変わらぬようで何より」

「王も元気そうで何よりじゃ。昼間は大変失礼したのう……」


「この場ではそちと私しかおらぬ故、昔のようにブライティでいいんだぞ」

「ありがたきお言葉ですわい。しかし、あのガディスとバイツは相変わらずよのう……」


「ああいう者でも形だけでも居る事で、組織がまとまるという者よ。しかし、アラーダ、いよいよ数日の後この地に危機が訪れるのは、やはり間違いないのじゃな?」

「昼間に申し上げた通りですわい。聖の守護部隊(セイントガーディアン)が恐らくグランドグールを迎え討つ算段じゃろうが……それだけではこの国は危なかったじゃろうな」


「危なかった……という事はお主には既に考えがあるという事じゃな?」

「そうじゃの……考えがあるからこそ、王の前に現れたと言っていいかもしれんの……魔導連結部(アークリンクユニット)の保護下にある、光治療施設……今そこに人間の適合者(・・・)が居るのじゃよ」


「なんと!?」


 王が驚いた表情を見せる。


「人間の夢みる力(ドリーマーパワー)、妖精の契約者(パートナー)、エイトやクレイ、まほろばを含む二十年前の戦闘経験者、別々に行動していた者達が今、ひとつになった事で、今回の敵に対抗する役者が出揃ったというところじゃ。本当は魔導連結部(アークリンクユニット)聖の守護部隊(セイントガーディアン)が協力体制を講じる事で、より作戦の成功率があがるところであったのだが……こうなった以上、こちらは独自で動くしかあるまいの……」


「しかし、人間の適合者はエイト(・・・)以来という事になるな。たった二十年で新たな適合者が現れるとは……妖精界に何かが起こっているのかもしれんな」


「妖精界の異変を調べるより今は、目の前の敵を倒すのが先ですわい」

「面倒をかけるの……アラーダよ」


「心配するでない、昔のよしみじゃブライティ」

 



 元ブライティエルフ軍部大臣アラーダは、ブライティ王と幼馴染であった。ブライティが王になるよりも何百年も前、幼少時代より行動を共にしていた。お互いの考えるところは何も言わなくても分かる存在であった。アラーダはいち早く国の危機を察し、雄也達がナイトメアに敗戦し、光治療施設へと保護された後、王宮にて直接共同作戦を提案すべく、交渉をしていたのである。


 だが、その思惑は崩れてしまう……。ガディス公爵とバイツ公爵が共に反対したのである。『今更引退した分際で何をしに来た』『戦闘は聖の守護部隊(セイントガーディアン)へ任せてお前ごときが何もするでない』『手柄を立てて王宮へ戻ろうという魂胆だろうが、そうはさせん!』……などと、まくしたて、一切の話を受け入れようとしなかったのだ。ましてや、魔導連結部(アークリンクユニット)は街に結界を張り住民を避難させるだけで、戦闘の邪魔をするななどという始末。

 結果、やむを得ずアラーダは、王に直接影で動く許可(・・・・・・)をもらいにお忍びで夜に王の寝室へと来ていたのである。





 ―― 決戦の日まで四日を切っていた。





      ★    ★    ★



 ―― もう食べられないっす……ステーキ、ハンバーグ、エビフライ……もう満腹っす


「にゃーー! こいつまた満足してやがる! 満足すると結界が薄れるではにゃいか!」


 暗い暗い部屋の奥、ベットの上に一人、ぽっちゃりの男の子が寝かされている。どうやら夢を見ているようだ。頭にヘルメットのような何かをつけられ、何本ものチューブのようなものが謎の機械へと繋がっている。


「ここをこうしてこうにゃ!」


……ピッ、ポッ、パツ!


 猫っぽい手が機械についているパネルのボタンをいじり、機械音と共にモニターが七色に明滅する。やがて、チューブを光が通り、男の子の被ったヘルメットへと届く。


 ―― うぉおおおお! デザートが出てきたぞぉおおおお! プリン、パフェ、ケーキ…………いただきますーーー!


 男の子が涎を垂らしながら笑顔を取り戻す。機械は静かになり、やがて部屋も静寂を取り戻す。


「順調か? キャッツボーンよ!」


 ふいに後ろから声をかけられビクっとなるフードを被った猫の姿の妖魔。


「ナ、ナ、ナ、ナイトメア様ーーー! こ、こんな時間にどうなされたのですかー!」


「ふん、結界がまた一箇所薄くなっていたので、ワシが様子を見に来てやったのだよ」


「も、も、も、申し訳ございません! こやつがすぐ満腹になるものですから! 一生美味しい物を食べられるだけ食べるという夢を叶えてやっているものの、毎日同じ物だと満足してしまう傾向がありまして、あらゆる料理を試しているのでありますにゃ!」


「まぁよい。先日のように結界の隙間から、一匹羽虫(・・)を中に入れるような事があれば、次はないからな」


「わ、わ、わ、わかりました! 心して任務を遂行します!」


「あと四日でこの国はワシの物になる。そうなれば結界も不要になるであろう。あとはそのガキも好きにするがよい」


「あ、ありがとうございます!」



 ―― 漆黒の覇者は闇の中、うっすらと笑みを浮かべる……。





      ★    ★    ★



 光が閉ざされた今、光の国(ライトレシア)の朝は深く厚い黒雲に覆われている。まるで異世界でも、闇に囲まれた魔界のような印象を覚えてしまう。それぞれの思惑が動く中、決戦の日が少しずつ近づいていく。


「雄也さーーん、会いたかったですーー! 久しぶりの登場のリンクですーーーー! おはようございまーーーーす」


 ドーーン


「んんん……んあ……リ、リンク? あ、おはようって……え?」


 宿泊棟のベットぐっすり眠っていた雄也。隣には昨日空気が抜けていた(・・・・・・・・)優斗が元に戻った状態で寝息を立てている。そして、目の前には馬乗りになってキラキラした蒼色の瞳(ブルーアイズ)で見つめているリンクが居た。


「あわわわ……リンクどうしたの! って身体はもういいの?」


「この通りピンピンですよー! シャキーンです! 雄也さんに逢いたくてレイアに病室の部屋を開けてもらって、ここまで起こしに来ちゃいました!」


 えへっ、と笑顔を見せるリンク。


「そ、それはわかったからそこをどいてくれる? このままだと起きられないから」


 マウンティングポジションを取られ、全く動きが取れない雄也がリンクにお願いする。


「はぅうう…………勢いで飛び乗っちゃってましたー。すぐどきますねーー」


 ドサッ!


 どこうとして慌てたのか、そのまま雄也に覆い被さるリンク。

 リンクの双丘が雄也の顔を塞ぐ。


「んんんん……ンク……息……んんんい……」


「あわわわ…………ごめんなさいー」

 慌ててベットから飛び降りるリンク。


「あーー死ぬかと思った。リンクって……あんまり目立たないけど意外と胸あるんだね」


ボソっと言う雄也。途端に顔が真っ赤になるリンク。顔を隠すリンク。


「はわわわわわわ……雄也さんーーー恥ずかしいですーーー」


「んん……あれ、雄也とリンク? どうしたの? もう朝?」


……!?


 隣のベットから声がしてビクッと反応するリンク。


「あ、優斗さん、おはようございますー! 雄也さんー、という訳で、わ、わ、わたしは元気です! ピンピンなのです! なので先に食堂に行ってまますね! レイア達が食事の準備ししててるみたいなので!」

「あ、う、うん、わかったよーーすぐ行くね!」


 リンクはそのまま高速で部屋の外へ出て行ったのであった。


「雄也、リンク……どうかしたの?」

「あ、優斗? いや、なんでもないよ」





 リンクも無事元気になり、その日まほろばさんから完成した改良型水鉄砲を披露された。


「す、すげーー!」


 あの黄色と黄緑のおもちゃのような水鉄砲が、タンクの横に宝石を取りつけるような箇所が加えられ、色はさほど変わらないものの、ラメが入ったメタリック仕様に進化していた。トリガーの横にレバーまでついている。


「どう、雄也君。〝ウォータージェット〟、改め〝アクアシューター〟よ。魔水晶から魔力を抽出した魔結晶をそこに装着する事で、様々な属性攻撃を追加出来る。魔結晶さえ作れたなら、契約していない妖精の属性まで使える訳だから、かなり強くなったハズよ」

「あ、ありがとうございます、まほろばさん」

「雄也さん、凄いですー! これで無敵ですね、シャキーンですね!」

「トリガーの下のレバーはどのように使うのですか?」


 レイアが質問する。


「それはね、連射が出来るレバーよ!」

「おぉー連射!」


 ―― それは素敵な響きだね


「まだ魔結晶を込めた攻撃は連射が出来ないんだけどね、通常の攻撃はこれで連射が出来るようになったわ。魔結晶もいくつか作ったから持っていきなさい。それからナイトメア戦にはこれを使ってね。これは一回切りしか打てないから、絶対に当てないとダメよ」


 ―― そう言って渡された小さな魔結晶は、キラキラと光を放ち、輝きを放っていた。


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