第22話 妖精達の宴 そして……
「(もぐもぐ)これうまいにゃーーーー最高にゃーーーー」
大きな縦長のテーブルに色んな料理が並んでいる。目移りするほど彩も綺麗だ。
「ブリンク様たくさんありますからどんどんお召し上がり下さいませ」
ブリンクの前にレイアが持って来た骨付き肉の塊が置かれた。
「おーけーにゃーーーどんどん食べるにゃーーー」
「いやぁーさすがに疲れたよー。ね、パンジー。」
「僕もあんなに妖気力使ったの久しぶりだよー」
「一時はどうなるかと思ったが、最後の〝麻痺水弾〟はなかなかだったぞ」
「ありがとうございます! この調子で頑張ります!」
クレイに褒められやる気になる雄也。
「雄也さん! 明日は私とも透過訓練しましょう! 今日は退屈でショボーンでした」
「了解、リンク。じゃあ交代でやろう!」
「やったーリンクと一緒なら僕も嬉しいよー」
「運動した後の飯は絶品だなーー」
「そういう和馬は結構さっきまで瀕死状態だったけどな」
「ファイリーも苦戦してたじゃねーか?」
「いやいや、あれは相手の様子を見てたんだよ! 様子をだな」
「そうだったんですか? なら明日はお互い本気でいきましょう」
なんかレフティとファイリーがギラギラ燃えている気がする……。
「あれ? そういえばレフティさん……あれは大丈夫なんでしょうか?」
「はぁー、姉さんまた始まったわ……。姉さんしっかりしてそうでミーハーなんです……あとお酒飲むと性格が変わるんです……」
そういう溜め息をしたレフティと和馬達の視線の先には……
「人間の男の子ってーー間近で初めて見ましたーー! ねぇーもっと近・づ・い・て・いいですか?」
「おぉおおおおおーーーライティさん! いいいですよー喜んでーー俺も感激ですー」
ワイングラスのようなグラスを片手に、甘声で優斗に近づくライティ。そして、耳元で囁かれてノックアウト気味の優斗だ。
「ライティでいいよー? なんだったら、デザートに私のプリンも……い・か・が?」
「ぬ、ぬおーーー! いいんですか? 光妖精の神聖なプリンをーー! いただいちゃっていいんですかーー?」
ガシャン!
「デザートでしたらこちらにありますから、残さず食べて下さい」
レイアにより、目の前に食欲を減退させるような紫の巨大なフルーツが置かれた。
「あらー、レイア先輩ーーー? もしかしてー、優斗とイチャラブして嫉妬してるんですかぁーーー?」
「な! いいえ! お食事を戴く神聖な場を汚すような行為を辞めていただきたいだけですよ! ライティもこれ以上その状態を続けると……出ていってもらいますよ?」
「もうー、レイア先輩って、昔から真・面・目なんだからーー! そんなんだといつまで経っても彼氏なんて出来ないですよー。もっと楽しまないと! ね、ゆ・う・と(はぁと)」
「で、ですよねーーーーたたたた楽しむの大事ですよねーーー……てか、お仕事中のライティと今のライティ……艶めかしさというか妖艶さが違うというか……」
「お昼は仕事の顔よ……そして今はよ・る・の・か・お」
優斗の太ももにライティの太ももが乗っている状態で優斗の横にぴったりくっついているライティ。優斗はほぼノックアウト状態だ。
「ライティ、いい加減にしなさい!」
「はぁーーい、しょうがないなぁー。優斗ーーーまたねーーー」
「はーーい、またねーーライテ……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
優斗の後ろでレイアが黒いオーラを放っているのを見て、さすがに優斗が正気に戻った。
「い、いやぁーレイアさんの作る料理は美味しいなぁーーー」
目の前に置かれた紫の巨大なフルーツ(後で聞くと〝パープルドドリアン〟と言う名の味は絶品だが、匂いが強烈な果物だったらしい……)を泣きながら食べる優斗だった……。
「うむ、賑やかな食事はいいものじゃのー」
「はい、族長。これだけ人が集まるのは久しぶりですね」
エイトと族長が皆を見ながら話をしている。
「エイトよ、王宮に戻りたいか?」
「いえ、僕はここの生活が性にあって居ますよ。クレイやレフティ、ライティ、ブリンクも居る。ここで村の住民を救いながら、このまま趣味で夢の研究を続けるのも悪くないです」
「お主の場合は趣味の域ではないがの?」
「ははは、村に居ながらこれだけの設備を提供してくれた族長のお陰ですよ」
―― 冒険者・戦士達の束の間の休息……
―― 楽しい晩餐の時が過ぎていく……
★ ★ ★
その後も数日間訓練が続く。
リンクと雄也もコンビネーションを重ね、雄也の水鉄砲もリンクの魔力補充なしで通常威力の水弾は打てるようになった。
パンジーと雄也のコンビは、透過技・攻撃透過に、麻痺水弾が追加された。パンジーは、空中からの弓矢、地上からの蔓縛り、種子爆弾、痺れの花粉、さらには甘味妖霧という対象を眠らせる霧が発生する魔法も身につけている。眠りと麻痺を与えてしまえば多少の敵なら一層出来る。むしろ眠らせたまま先を急ぐ事も可能だ。
ファイリーと和馬は言うまでもないだろう。和馬は短剣の扱いに慣れているため、近距離戦での二人のコンビネーションは強力だ。防御系の技は少ないが、ファイリーに関しては剣で弾いたり、カウンターを加えたりしているので不要な気もする。
そして、ブリンク。この子の動きは特殊だ。猫のような素早い動き、跳躍力、そこから放つ光印爪。優斗が防御透過を身につけた事も大きい。恐らく敵からの強力な攻撃に対する防御結界になるだろう。回復魔法の使い手もレイアに続き二人目となった。今まで活躍の場がなかった優斗の鞭も、光源の鞭という攻撃透過を身につけた事で、負の妖気力を浄化させる攻撃が出来るようになった。この数日間でかなりの進歩だった。
そして、知らせは突然やって来る……。
「族長ーーー、族長ーーーー! 大変です! 光の国西方より青い鳥です! 恐らく、蜥蜴人の村の族長かと」
料理の準備をしていたライティからだった。
「なんじゃと? あやつは確かにエルフから青い鳥の送り方を教わっておったが……。まさか良くない知らせでなければよいが……」
「みんなはこのまま訓練を続けていてくれ! 僕と族長で上に行く」
何か起こったのではという空気に不安になる一向。
「ほらほら、そんな顔をしない。訓練続けるぞ、ここからは私が皆の相手をしよう」
クレイが発破をかけるが……
「いえ、何か起こったのなら俺等にも関係がある」
「俺たちも行かせて下さい」
「そうだねー。やっぱ気になるしね」
「君たちが知ってどうする! まだまだ覚えたての技でどうやって敵と戦うというんだ!」
クレイが怒鳴りつける。
「雄也さん、皆さん、ここは訓練を続けましょう……」
「だな。あたいは戦うのみだぜ」
「じゃあうちも行くにゃーーー」
「僕もコンビネーションを見せるよー」
青い鳥が気になりつつも訓練を続ける一行だった……。
「そうか……蜥蜴人の村も全滅か……」
「どうやら……ブライティエルフ以外の街や村を順番に襲っているようですね……。ブリンティス村はたまたま救われましたが……このままでは光の国全体が壊滅してしまう……」
エイトも考え込んでいる……。
「映像で初めて見たが……グランドグール……かなり危険な妖魔じゃの……」
「しかもこの様子……東に向かっていますね……もしかしたらブライティエルフに……」
「足取りは遅い故、恐らく決戦は十日前後でしょう……それまでに手を打たなければ」
「あの子達を巻き込んでしまうのは申し訳ないが……最後の希望になるかもしれんの」
「レイアさん……そこに居るのでしょう?」
厨房から騒ぎを聞いて、レイアは偶然陰から映像を見ていた。
「はい、申し訳ございません。覗き見をするつもりはなかったのですが……」
「貴方達が最後の希望になるかもしれません。よろしくお願いします」
「わかりました。お嬢様達は私が見張っておきます」
「ライティ!」
「はい、院長……いえ、エイト様」
「早馬でブライティエルフへ向かってくれ! 魔導連結部のまほろばを訪ねてくれ!」
「え、現隊長のまほろば様ですか!? いつも研究室に籠っているというあの女エルフの隊長……まほろば様……ですよね?」
「あの子は普段外には顔を出さないが、光魔法や結界術に関してはプロフェッショナルだ。恐らくグランドグールやナイトメアを倒せるとしたら……あの子も鍵になるはずだ! くれぐれも道中気をつけて!」
「はい、わかりました! 行って参ります!」
そういうと、院長の部屋に立てかけられていた槍を身につけ、ライティが外へ出る。
「それから族長」
「そうじゃの……心配せんでも、光の国も動いているじゃろうて。じゃがあのルーディス一人じゃあちと頼りないのう……」
「我々も来るべき時に向けて準備をしておきましょう」
「久しぶりの本格戦闘は腕が鳴るのう」
―― 危機的状況にもかかわらず……族長からは笑みがこぼれていた。
―― ブライティエルフの歴史に残る戦いが、幕を開けようとしていた……。




