★第195話 エピローグ これからもよろしくね
「ええ、大丈夫よ、ちゃんと手筈は整ったわ。記憶操作も完了しているから、心配しなくてもいいわよ」
『あとはよろしくお願いしますね葉子』
巫女専用通話『MICONE』での会話を終え、社務所で団子とお茶を飲む葉子。そのままスマフォの画面をタッチし、誰かと電話する。
「あ、ルナティ? 暫く何かあった時は妖精界へ渡って貰うからよろしくね」
『今日からは暫く人気アナウンサー森山雪江の姉、森山瑠奈ですよ、葉子さん。保健室の先生役は任せて下さい』
通話を切った葉子の前へ、赤いサロペットの下に熊のTシャツをランドセルを背負った女の子が登場する。
「ママ! 学校に行ってくるでしゅ!」
「行ってらっしゃい気をつけてね、三葉」
三葉はツインテールの黒髪をぴょんこぴょんこさせながら、社務所を出ようとする。
「そうそう、今日はうちの姪っ子を招待して夜パーティだから、そのつもりでね!」
「姪っ子? 聞いてないでしゅよ?」
ぽかーんとした表情で考えていた三葉だったが、何かを思い出したかのように手を叩く。
「あ、そういう事でしゅね! 楽しみにしてるでしゅ」
三葉は元気よく水霊神社を飛び出した。
春を告げる花がトンネルを創る並木道。新しい季節を告げる風が朝の爽やかな刻を知らせる。男子高校生が、クラスメイトへ突っ込みを入れ、女子高生が他愛ない会話を交わし、春休みの出来事を報告し合う。何処にでもある登校風景。
「美優おはよーー。あれ~~ちょっと美優! 隣に居るの、優斗君だよね? あんた達そんなに仲良かったっけ?」
「あ、おはよー舞。え、だってこいつと私、幼馴染だし。別に何も変わってないわよ?」
「橋本さんだっけ。おはようございます。桜、綺麗ですね」
制服姿の森山優斗は寝癖が残った髪を左手で弄りつつ、クラスメイトへ挨拶を交わす。橋本舞は、美優の中学からの友人だ。あからさまに距離が近い二人、美優と優斗に思わず突っ込みを入れる。
「いやいやいや、可笑しいでしょ。ただの幼馴染なら手繋がないっしょ!」
普通人前では恥ずかしがってイチャイチャなんてしない。ましてやツンデレ要素の強い美優なら尚更だと舞は思っていた。
「おーい、おはよう優斗、美優さん」
「あっ、和馬君。その後ろは雄也君! おはよう!」
まるで昔からの友人のように挨拶する美優に困惑する舞。和馬に至っては呼び方が新井君だった筈なのである。優斗に続いて、他の二人に対しても態度が変わっている美優の様子に思わず突っ込まずにはいられないクラスメイト。
「ちょちょ、ちょっと! あんた達も、一体春休みの間に何があった訳ぇえええ!?」
「舞、何もないわよーー。何も」
「いや、何も? なぁ、雄也」
雄也は一呼吸置いて答える。
「嗚呼、何も変わってないよ」
――そう、元に戻っただけ。春休みが始まる前と変わらない日常が始まるだけさ。
今日から雄也達は二年生だ。クラス替えの掲示に従い、新しい教室へと入っていく。雄也は和馬と同じクラス。優斗は美優と同じクラスとなった。優斗と美優が同じクラスになっているあたり、自身の叔母である水無瀬葉子か何か操作したのではないかと、変に勘繰りを入れる雄也だ。
教室の後ろ、窓際の席へと座る。和馬の席は入口へ一番近い最前列だった。新しいクラスに期待し、談笑する生徒達。雄也はそんなクラスメイトの様子を見つつ、平穏を噛み締める。
「まぁ、元に戻っただけだよな」
これが日常だ。他愛ない事に笑い、喜び、辛い事に悲しみ、怒る。普通の日常、普通の高校生活。春休みが来る前まで、雄也はそんな平穏を望んでいたのだ。何度も何度も同じ日を繰り返し、刻が動き出した後も、時間軸が違う世界でとてつもなく長い冒険を終えて帰って来た。
あの妖精界で過ごした日々は、何年もの出来事として雄也の記憶にしっかりと刻まれていた。
「今更なかった事には出来ないよ」
雄也の溜息は教室の窓へとかかり、空気中へと消えていく。一年の時と同じ、担任は山本先生のようだった。おはようございますの挨拶と共に、生徒達が一礼する。
「今日から新学期、みんな二年生だ。担任の山本です。クラス替えで新しい顔触れの者も多いと思う。また新鮮な気持ちで新学期を迎えて欲しい」
淡々と話をする担任。雄也の頭には入って来ない話だった。
「さて、そんな中、転校生を紹介しようと思う。みんな驚けーー。帰国子女だぞーー。ほら、入れーー」
クラスからどよめきが起こる。ノリのいい男子生徒が『うひょーー帰国子女キターーーー』と声をあげる。窓の外を見ていた雄也は、扉の向こうから入って来たブレザー姿の女子高生に目を丸くする。
「おい……嘘だろ……」
眼前を通過する美女に和馬が呟く。雄也の双眸はブレザー姿の女子高生に釘付けとなった。
「彼女の母親は、外国の人らしいんだが、保健室の先生をしていた水無瀬葉子先生の親戚でな、今回両親の仕事の都合で転校して来たそうだ。日本語は話せるらしいので、みんな仲良くして欲しい」
黒板へ山本先生が名前を書いていく。雄也の脳裏にこの時、どこからともなく声が聞こえた。
――彼女の肉体はあの刻確かに消滅してしまった。魂が消滅する前、トウドウサクヤと共に私が回収し、創造の女神様へお願いして今回特別に、魂を入れる器を用意して貰った。彼女は人間として産まれ変わったのですよ。
(ありがとう、十六夜さん)
既に雄也の双眸からは涙が溢れていた。茶色い制服がとても似合っている。彼女はなぜか掛けている眼鏡の水色縁に少し触れ、クラスの様子を見た後、元気に明るい声で挨拶をする。
「えっと、水無瀬・鈴久・ルーシーです。遠い国から来ました。こちらの国の事は知らない事ばかりですが、今とってもワクワクしています。皆さん、よろしくお願いします」
ペコリとお辞儀する鈴久へ拍手が沸き起こる。
「水無瀬の席は、あそこ。三井雄也の席の隣だ」
山本先生に促され、リンクはブレザー姿のまま雄也の傍へと近づいていく。蒼く美しいショートヘアーも蒼色の瞳もそのままに。雄也は涙をハンカチで拭い、高まる鼓動をそのままに眼前へと現れた女子高生を見上げ、皆に聞こえないよう小声で囁いた。
「……お帰り……リンク」
「雄也さん、これからもよろしくお願いしますねっ! シャキーンです!」
――Thank you for reading kinmori's story! to be continued bokuai's world.
近森!をここまでお読みいただきありがとうございます。こちらの作品はもう15年以上前、私が大学生の時、ゲーム用シナリオとして書いたのが最初でした。その頃は個人ホームページしかなく、歌手の応援をする傍ら、趣味で小説を掲載していました。いつしか就職し、小説を書く事を忘れた私。月日が流れ、某スライムの有名作品にたまたま出逢った事がきっかけで「小説家になろう」様へ登録した事が、Web小説を書く事になったきっかけです。どうせなら、一度ゴールが決まっているこの長編を書いてみよう。と書き始めたのが「近森!」でした。
王道RPGっぽいけど主人公っぽくない主人公雄也。武器も王道とは全く外れた水鉄砲。でも物語の後半はしっかりカッコよく決めてる。そして、絶対的可愛さを誇るヒロイン、リンク。この二名とその仲間達が織り成す物語がこうして誕生しました。
これだけの長編を最期まで追いかけて下さった方。本当にありがとうございました。いつも読んでくれる方々の応援が無ければここまで来る事はなかった。実は更新が止まってますが、この作品の続編に当たるお話『僕愛』も連載中です。雄也君とリンクは出て来ないですが、懐かしいメンバーが出て来るかもしれません。よかったら覗いてみて下さい。(ただしエロ要素強めなんでご注意を!)
完結という事で、良ければ今後の活動の励みになりますので、巻末の評価ボタンをポチっといただけると嬉しいです。
ではでは、またどこかで、とんこつ毬藻作品でお会い出来ると幸いです。
今後とも、よろしくお願い致します。シャキーンです!
2019年5月30日 とんこつ毬藻




