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第189話 究極最終形態

「ちょっとぉ~~どうして私は最期の舞台へ入れない訳~~~!」

「待って、ウインク! そんなジタバタしないで!」


 空間に最期の舞台を映し出す映像が浮かびあがっている。絢爛豪華に変化した水色の着物を羽織った弥生が中央で座禅を組み、白き聖衣を身に着けた聖魔の巫女――ビクトリアが結界を展開すべく魔法陣を展開している。その周囲を何名か選ばれし妖精達が座り、妖気力(フェアリーエナジー)を巫女へ送っていた。


 空間に用意されたモニターに映し出される映像を見つつ、苦言を呈している風妖精(ウインドフェアリー)が、兎耳を揺らしつつ飛び跳ねている。そんな風妖精を後ろから羽交い絞めしつつ引き留めるは桃色の髪と花をあしらったフレアスカートに戻った花妖精(フラワーフェアリー)


「ウインク、そう言わないの。最期の舞台で使役出来る妖精は一名(ひとり)。レイアとミューナは魔眼があるから特別よ。私だって優斗と融合したかったけど、ブリンクの回復技と聖属性攻撃は重要な役割を果たすから、仕方なく舞台の維持に廻ったのよ? ウインクもパンジーも結界の維持に妖気力(フェアリーエナジー)を送る重要な役目を果たしているんだから……」


 ルナティが弥生の横に立ったままウインクを窘める。


「それなら〝妖気力送る係〟がファイリーでもいいじゃない。私だって和馬の隣に……」

「我儘言うんじゃありません事よ!」


 口を尖らせるウインクの下へ、つかつかとヒールの高い靴を履いたプリンセスドレス姿のお姫様が歩き、なんと彼女の頬を引っ叩く! 


「なっ、ぶったわねっ! パパにも和馬にも()たれた事ないのにっ!」

「貴女、今世界を救う戦いをしているのよ? 貴女が大切な人を想うなら、彼が無事に還って来れるよう、貴女の役割を全うし、ちゃんと祈りなさい!」


 風の都(ウイングバレー)の姫、かつての勇者パーティメンバーであるシルビアに打たれ、ウインクが我に返ったかのようにしゅんとなる。


「ごめんなさい、シルビア。私が間違っていたわ」

「分かればよろしくてよ」


 シルビアがプリンセスドレスをパンパン軽く叩き、結界維持の配置につこうと戻る。


「ウインクはん、堪忍な。シルビアは幾ら祈っても元勇者(シュウジ)と結ばれる事がないさかい、嫉妬しとるんよ……うわっと!」

「ビビ……貴女……それ以上喋るとその忍装束をズタズタに引き裂くわよ?」


 雷光の妖撃団(フェアリーナイツ)団長、雷妖精ビビ。彼女の余計なひと言にシルビアは顔を真っ赤にし、風の刃を飛ばす。ビビは風刃をひらりと躱し、ウインクへ向けてウインクする。


「ありがとう、ビビ。お陰で少し元気出た」


 気を取り直したウインクが元の配置につく。


「みんなぁ~~少し会わないうちにぃ~~すごく仲良くなっていたのねぇ~~私なんだか蚊帳の外だわ~~」

「そんな事言ったらさ、ウルル。普段フレイヤ火山に居る私なんか登場回数全然ないし、忘れられてるから、きっと」


 ゆっくりした口調で翠髪の森妖精(トレント)ウルルが声をあげ、彼女の周囲を赤髪の小さな妖精が飛び回っていた。


「あら、そう言えば、貴女何者? 掌サイズの妖精なんて珍しいわね」

「私だよ、私! 火精霊(マーズ)の使いやってるフレイア・ディースですよっ! ほら、私人気者だからさっ。弥生に呼ばれて此処に来たって訳!」


 ファイリーがフレイア火山で挑んだ火精霊(マーズ)の試練。その際、山頂で火精霊の使いをやっていた彼女も元勇者パーティ、咲夜とかつて契約した火妖精、フレイア・ディースだった。


「弥生さん、弥生さん達の仲間にも、私みたいな濃いキャラ居たんですね……」

「うわっ、ウインク自分で濃いキャラ言ってるし……」


 ウインクが部屋を飛び回る妖精を横目で見やり、パンジーが彼女に突っ込みを入れていた。


「さぁ、みんな。恐らく魔人もそう簡単に倒せない筈よ。今からが本番よ!」

時渡の力(テンプスポーター)はルナティ様と私の力を呼応させ、サクヤが止めてくれています。あともうひと踏ん張りです!」


「みんなっ、世界を救うわよっ!」

「おーけー任せておいて」

「僕の本気を見せてあげるよ」

「本当、(ワタクシ)が居ないと皆駄目駄目ですわね」

「そう言いつつ嬉しいんやなシルビアはん。ほな行くで~~」

「は~~い。お任せあれ~~」


 ビクトリアと弥生の声に皆がそれぞれ頷き、返事する。


「ちょっと待ってーー私を無視しないで下さいーー!」


 火妖精(フレイア)は舞台装置を創る部屋にて一名(ひとり)、声をあげるのだった。




     ★    ★    ★


 魔人ウルティマの身体は自らが発した漆黒の光に包まれていた。世界の混沌と深淵を集めたかのような黒。黒は集積し、やがて巨大な卵のような形を象る。深淵の卵に罅が入り、やがて、人の姿を捨てた魔人が、混沌と深淵の殻を破り誕生する。


 魔人の顔には真っ白な仮面に銀水晶に紅い宝石の瞳孔を埋め込んだかのような異形の瞳が三つ。長い銀髪に二本の角。口も鼻も耳も存在しない。身体があるべき場所は、宇宙空間のような亜空間をそのまま卵の形にしたかのよう。そこから漆黒の翼と魔人の腕とドラゴンのような巨大な尾が生える。何より不気味だったのは、宇宙空間のような亜空間に、エイト本来の顔が埋め込まれたかのように浮かんでいる事だった。


「化物かよ……」

「姿が変わってもウルティマには変わりないよ」


 和馬が思わず呟き、雄也はあくまで冷静に魔人の姿を凝視する。


世界のため堕ちた卵(ハンプティダンプティ)――究極最終形態(ウルティメイト)。さぁ、いよいよ最終楽章(フィナーレ)だ。始めようか』


「きゃっ」

「ミューナ!」


 ウルティマの額にあった銀水晶の瞳が妖しく光った瞬間、ミューナの腸を閃光が貫いていた。隣に居たレイアすら反応出来ない速度。銀髪姉妹の隣に魔人が立ち、巨大な腕で二人の身体を赤子を捻るかのように薙ぎ払う!


「ブリンク! 二人の回復を!」

「はいにゃ!」


 素早くブリンクが遠く飛ばされたレイア、ミューナの傍へ向かおうとするが、金色に輝くドラゴンの尾が大人ブリンクの体躯を捉えようと迫る! 負けじと彼女は華奢だが野生化の力を凝縮した腕で尾を掴み、魔人を投げ飛ばそうとするが、あろうことか、投げ飛ばされている体勢のまま、魔人の腕が触手のようにうねり、ブリンクの身体を貫いてしまった!


「がっ!?」

『これで三名(さんにん)!』


 無残にも頽れる大人ブリンク。一部始終を視ていた和馬がすぐさまカザミドリの刃で魔人の体躯を一文字に薙ぐが……。


「な……すり抜けた……?」

『残念だったね和馬君。今の僕の身体は物理法則が通じない』


「和馬離れろ! あたいがやる!」


 戦乙女姿のファイリーが灼熱の炎を魔人へ向け放つ。彼女は、胴体を透き通る炎も、実体のある顔や腕、尻尾には通ると考えた。魔人が灼熱の火焔によって燃え上がり、火柱が上がる。


「駄目だ、和馬、ファイリー、避けろ!」

『……五名(ごにん)


 触手のように腕が伸び、和馬とファイリーの身体を魔人の爪で引き裂く。赤い飛沫が蒼穹の舞台へ飛散し、両膝をつき、二名(ふたり)は地に伏してしまう。


虹魔精霊弾ラルクエレメンタルボム!」


 全属性を籠めた水戟が魔人の体躯を捉える。時空の力すら打ち破る水撃は、魔人の身体へ確実に傷をつける。魔人が伸ばす腕を蒼く冷たく輝く瞳――霊蒼(れいそう)の魔眼で予測し受け流す。


「――戦扇流(せんおうりゅう)の舞」


 伸びた腕に大人姿のリンクが可憐な舞で水龍の扇による連撃を加える。腕は真っ二つになる事はないが、飛沫と共に紫色の体液が舞台へと舞っていく。


『無駄だよ』


 伸びた腕が戻る瞬間、上空より降り注ぐ光と闇による殲滅。白と黒、二種の矢が瞬く間に空間を覆い尽くし、雄也達を殲滅していく。翼を羽搏かせ宙へと浮かぶウルティマ。同じく空間へ浮かぶ半透明な姿の女子高生と並ぶ。


『サクヤ、美優はどうした?』

「避難させましたよ? 貴方も娘に手をかける事は本望ではないでしょう?」


 腕を伸ばし、ウルティマがサクヤに触れようとするが、彼女の肉体を掴む事は叶わない。


『そうか。君の姿も此処に投影されているだけで、此処ではない何処かに居るという事か』

「そう。でも私達(・・)は貴方を視ている」 


 虹色の閃光が上空へ浮かぶウルティマへ放たれる! 光と闇の殲滅を受けても尚、立ち上がる一人の青年。他の人間と妖精達も、まだ息があるようだった。


「まだ終わらないにゃーー」

「お嬢様」

「皆さんを……回復させます」


 大人ブリンクが、レイアとミューナが手を翳し、倒れた者達へ光のシャワーが降り注ぐ。


「こんなところで俺達はまだ……」

「あたいらはまだ、終わる訳にはいかない」


『そうか、じゃあ死ね』


 再び降り注ぐ白と黒による殲滅。舞台を維持するため、ビクトリアは舞台を維持する必要があり、弥生達は時渡の力を防ぐ必要があった。最早此処でこの攻撃を防ぐ術は残されていない。少なくともウルティマはそう思っただろう。しかし……。


「ま……まだだ……」

「雄也さん……」


 仰向けになった状態で、互いの手を握る雄也とリンク。全身の傷より赤い血が流れ、透明な舞台を染め上げていく。ブリンクと優斗の融合が解除され、和馬とファイリー、そして、レイアとミューナも地に伏している。


 ――リンクーー! 雄也ーー! 絶対死んじゃだめだーー!


「パ……パンジー……」


 ――ちょっと和馬! ファイリーも! 私を置いてその舞台に立ってるんだから、勝手に死ぬんじゃないわよっ!


「ウ……ウインク……」


 ――優斗。愛しの優斗。まだ諦めるには早いわよ!


「ル、ルナティ……?」


 最期の舞台へ力を送る者達の声援(エール)が、雄也達へ届く。



「私が視ている限り、この子達は死なせません」

『そうか、サクヤの仕業か。どうりで威力が弱まった気がしたんだ』


 街一つ一瞬で消し飛ばす事が出来る程の威力を持つ殲滅の矢。サクヤは自身の残された力で彼等を護っていたのだ。


『さぁ、いつまで持つかな?』


 白と黒の矢が遥か上空より降り注ぐ。サクヤが結界を展開し、彼等を護ろうとする。力による蹂躙。最早妖精界、人間界に残された手段は残っていないのか? 


「リンク……」

「雄也さん……」


 雄也は大人姿になったリンクの傷ついた身体を引き寄せ、そのまま赤く染まった大地で身体を重ねる。


「ファイリー!」

「和馬!」


 和馬とファイリーが左手と右手、互いの拳を重ね合わせる。


「ブリンク、こっちだ……」

「うち……まだ諦めないにゃーー!」


 蒼き柱、紅き柱、黄金色の柱。

 三つの光が最期の舞台(ファイナルフィールド)の天上へと昇った!



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