第17話 光の国へ
光の国へ向かう丘を進む一向、やがて丘の上に一本の大きな樹が見えて来た。
「ふぅ、ようやく着いたよ」
「さすがに疲れるやん」
「このくらいじゃあ俺は疲れねーぜ」
「皆さん、くまごろうさんに乗って行ってもよかったんですよ? ちょっとぎゅうぎゅう詰めにはなりますが……」
「いや、それは俺が代表して遠慮します」
雄也が代表して断りを入れた。
「これが光の国に通じる『光源の樹』だよ」
パンジーがそう言うと、目の前には見上げる程の大樹があった。
「なるほど、私も実物を見たのは初めてです」
レイアもここに来るのは初めてらしい。
「まぁ、普段は記憶の魔法陣を使って直接光の国に行く事が多いからねー。今はなぜか記憶の魔法陣も夢渡りの力も使えないみたいだし、仕方ないよね」
「それはさっき言ってた異変っつーのが問題な訳か?」
ファイリーが代わりに聞いてくれた。
「恐らくそういう事だと予測出来ます。もしそうであれば、今まで戦って来た妖魔から夢の欠片が出て来たのも頷けます」
「私の持っている夢の欠片は子供から出て来たみたいだけどねー」
リンクは水晶の塔で見つけた夢の欠片を持っていた。エレナ王妃に一旦は預けたものの、光の国へ向かう事が決まった際、役に立つかもしれないと渡されたのだ。ちなみにファイリーも、漆黒の騎士を倒した際に夢の欠片を入手していたらしく、同じ物を持っていた。
「光の国は夢みる力の研究も盛んなようです。もしかしたらこの夢の欠片を有効に利用する方法が見つかるかもしれません」
「あれだね、鑑定してもらうとか、錬金に使うとかかな?」優斗は一人想像しているようだ。
「じゃあ、みんな準備はいいかい?」パンジーが声をかける。
「準備って、でもどうやって光の国に行く訳?」
雄也が疑問を口にする……。目の前には大樹があるだけで、入口なんて見当たらない。
「まさか、開けーーゴマなんて言ったら入口出てくるとかじゃないよね?」と優斗。
「ん? ゴマ? 何それ美味しいの? まぁ、いいや、行くよー」
そういうと、パンジーは目を閉じ祈り始めた……。
―― 光の主よ……大地を見据え司る者よ……光の途へ我等を導きたまへ……闇を照らす道標として我等に希望の灯を与えたまへ……
……
……ゴゴゴゴゴ
突然周辺の地面が揺れ始める!!
と同時に大樹が伸びたかと思うと、大樹の真ん中に入口が出て来た。
「おぉおおおーーすげーーゲームっぽい!」
真っ先にそう発言したのはいつもの優斗だ。
「まぁ、これは確かにスゲーな」
和馬ももちろん雄也も驚いている。
「僕の実力分かった? この入口を開ける事が出来るのは植物と会話出来る、花妖精や森妖精くらいなんだよー」
「パンジー素晴らしいですー! シャキーンです! いざ光の国へ行きましょう!」
「皆様、中が暗いようですので気をつけて下さい」
「暗けりゃあ、あたいの炎がたいまつ代わりになるから心配いらねーぜ」
―― 火妖精の炎ってそんな使い方もあるんだ
……そう感心しつつ、入口へと入っていく雄也達なのであった。
『ふにゃあーーーーお魚いっただきますにゃーー』
パクッ
『美味しいにゃーーお魚食べながら樹の上で日向ぼっこ……幸せにゃーー瞳がおんぷおんぷにゃーー』
―― あなたの夢……本当、夢みる力が溢れてるわよね
『にゃにゃ!!』
ドサッ
『い、痛……くないにゃーー樹から落ちたのに痛くないにゃー』
―― そりゃあそうよ、だってこれあなたの夢の中ですもの
『あ、そういう事かにゃーーってその声はルナティ! 久しぶりにゃー』
―― あら、気づいた? 久しぶりねブリンク。あなたは相変わらずみたいね
『相変わらずはよく分からにゃいけど、うちは元気いっぱいにゃー』
―― 元気ならいいわ、あなたにお願いがあって来たのよー
『なんなのにゃー? 面倒くさい事以外ならおーけーにゃー』
―― 面倒くさくはないわよ。あなた近々、人間の男の子を含んだパーティーと会う事になるわ。その中の優斗って男の子と契約して欲しいのよ
『契約? なんか面倒くさそうにゃー』
―― そんな事ないわよー。契約すると気持ちいいわよー。使役されると妖気力も増すし、動きもきっと俊敏になれるから、あなたの好きな魚も簡単に採れるようになるわよ?
『おんぷおんぷにゃー! 魚いっぱい採れるのは嬉しいにゃー。じゃあ契約するにゃー』
―― あらら、意外と素直なのね。それに、あなたが首からいつもかけているそのロザリオって気づいてないかもしれないけど、使役具よ? ペアでもう一つあるんじゃない?
『あ、そういえば、もう一つ家の精霊様の像にかかってた気がするにゃー。うちが持ってるロザリオはおばあちゃんから貰ったものにゃー』
―― きっと、あなたの家系は代々その使役具を受け継いで来たんでしょうね。あなたの光魔法は、まさしく光の国の光になるわよ
『なんか難しい事はわからないにゃー、でも美味しいもの食べられたのならそれでいいにゃー』
―― そう、よかった。そろそろ目も覚める頃ね、私は行くわね、また会えるのを楽しみにしてるわ。あ、優斗によろしくって伝えといて! じゃあね
『おーけーにゃーーじゃあもうひと眠りするにゃーー』
そういうと、猫の姿の獣妖精……光妖精のブリンクは夢の中で日向ぼっこを再開したのであった ――
雄也達が光の国に入る……少し前の出来事である……
「うへぇーー、服が溶けてるんだけどー」
雄也が気持ち悪そうに自分の服を見ている。
「メイドのお姉さん、いやレイア様! その胸を拝ませて……ゴブワッ」
「ゴホン……優斗様には少し眠っていていただきましょう」
「ごめんなひゃい……」レイアに叩かれて謝る優斗。
「でも、どうしようー? 私とパンジーとファイリー以外服ボロボロだよー」
「あ、確かこの先に『妖精人』の村である、ブリンティス村があるはずだよ。そこで魔法で直してもらったらいいよー」
「え? パンジー、服って魔法で治るの?」雄也が驚いて尋ねる。
「そうだよー。光の国の光妖精は、回復魔法だけじゃなくて、聖属性の攻撃魔法に、治癒魔法、そして服を直すような修復魔法なんかにも長けてるんだよー。総称して『光魔法』って言ってるみたい」
「へぇーそりゃあー便利だな。さっきみたいな〝スライム〟の襲撃があっても平気って訳だな」
そういったのは和馬だ。
「スライムの中でも、さっきのは触れたものを溶かす〝グリーンスライム〟だな。妖魔の一種であたいの炎で焼けば一発だが、対抗策を持ってないと皮膚まで溶かされるから厄介だろうな」
「そうなる前にやっつけてくれてありがたかったです。でも自分はレイアさんの服はそのままに……」
優斗が懲りずにそう言うと……レイアが優斗の後ろに回り込み、首元にナイフをつきつけていた。
「あら、優斗様……そんなにおはだけがお好きでしたら、今から貴方様の服を切り刻んで差し上げてもよろしいのですよ? でも溶けた箇所が誰かさんに見えないようにかばいつつ、服を切り刻むと、手元が狂ってしまいそうですね……」
「優斗さん、凄いです! レイアをそんなに怒らせるなんてなかなか出来ないです! シャキーンです」
「いや……シャキーン言って……ないで……リンクさん……レイアさんを止めて……」
「大丈夫ですよー、レイアはそう言いながら優斗さんを殺したりはしないからー」
「メイドさん、怒らせると怖いな……」
「だな……」
頷きあう雄也と和馬だった。
光源の樹の入口に入ると洞窟になっていた。比較的一般道で迷わなかったのだが、ブラッティバットやエビルスパイダー、そして問題のグリーンスライムなどの妖魔が行く手を阻んだのだった。パンジーが弓矢で遠距離攻撃をしつつ、加えて、リンクとファイリーの攻撃で大抵の妖魔は倒せたのだが、倒しきれなかったグリーンスライムにより、他のメンバーの服が溶かされたのだった。メイドのレイアも然りであった。
ブリンティス村はしばらく光の国を歩いていると見えて来た。光の国は小国の集まりで、様々な種族が混在する国らしい。コボルトや妖精人、獣妖精にゴブリン、オークのような獣人族なんかも居るそうだ。そして、光の国の中心に位置する、ブライティエルフ国は聖都と呼ばれ、代々エルフの王族が治めているらしい。
「エ、エルフーーーー綺麗なお姉さんがいっぱいーーー」
「本当優斗は懲りないね……その性格が羨ましいよ」
「いやいや、雄也には言われたくないね……それにせっかくなら異世界を満喫せんといかんやろ?」
「まぁ、美人のおねーさんっつうのもたくさん居るが、面倒くせー貴族もたくさん居るぜ?」ともファイリーが言っていた。
ブライティエルフ国内には大貴族が存在し、派閥争いのような事を代々しているらしい。異世界も人間界もそういうところは変わらないんだね。光の国で異変が起きているなら、ブライティエルフに行って聞き込みをするのが早いらしいが、まずは近場で服を修復してもらうのが先だった。
―― こうして雄也達は、『妖精人』の村、ブリンティス村の入り口に到着したのである。




