第161話 虹の架け橋――夢見の虹橋
ディーネリア宮殿の奥、水精霊の試練の洞窟へ続く階段のある試練の間が存在している。その空間の奥、扉の向こうに、吹き抜けとなった祭壇が存在している。
伝霊の間――五大精霊の装備を身につけた者。そして、精霊の試練をクリアした者のみが入る事を許される空間。巨大な魔法陣が描かれた空間に、三名の使役主と三名の妖精、そして、精霊と交信出来る巫女のみが入室していた。
「ちょっと待ってくれ、ウインクさんはいつ風精霊の試練を受けたんだよ?」
「ふっふっふ、よく気づいたわね和馬。そもそも風精霊に認められないと風精霊の谷からカゼノモリ村の風霊山へ転移する事は許されないのよ?」
エヘンと耳をピンと立て、自慢気に話すはバニーガール姿の風妖精――ウインク・ピッピーだ。
「へぇー、まさかウインクがな。てっきり此処に入る事が出来る妖精はあたいとリンクだけかと思っていたぜ」
「ウインクさん、凄いですーー」
紅い戦乙女姿のファイリーと水色の羽衣姿のリンクも目を丸くして驚いている。
「まぁ、ファイリーとウインクも一緒なら、俺は心強いけどな」
「和馬ーーもっと私を頼ってぇーー」
「ちょっ、やめ、ウインクさん」
いつもの調子でウインクが和馬へ飛びつこうとする。
「エレナ王妃、五つの神具を並べました。これでいいですか?」
「ええ、ありがとう雄也殿。これで準備は整いました」
魔法陣の奥、祭壇のようになった場所に立つ巫女へ声をかける雄也。
「パンジーもルナティも残念そうやったやん? 全員で行けないってのも残念やん」
「優斗殿、そう言わないで下さい。資格のない者があちらへ向かおうとしたなら、何処でもない空間へ投げ出され、そのまま存在ごと消えてしまいます故。これは融合していても同じです」
優斗がエレナ王妃の説明を受け、ゴクリと生唾を飲み込む。しかもルナティと融合すれば……という自身の考えをも先読みされ、彼はしゅんとなってしまうのである。
ウォータリアの森よりルナティの夢渡りの力により移動した雄也達は、そのままこの伝霊の間へと移動して来ていたのだ。今回留守番となったパンジーとルナティにも役目はある。しばしの別行動だ。
「雄也はリンク、和馬はファイリーとウインクも居るからいいやん? 俺はルナティもブリンクも居ないからちょっと寂しいやん?」
「……優斗、呼んだかにゃ?」
突然、服の裾を掴まれ、不意に声をかけられた方を向くと、そこには猫耳セーラー服の猫妖精がいつの間にか存在していた。思わず飛び上がり驚く優斗。
「うわぁあ! び、びっくりした!? ……って、ブリンク? いつからそこに?」
「さっき到着したにゃー。優斗に会いたくて、白猫牙城を抜け出して来たにゃーー」
目をぱちくりさせて尻尾を振り振りさせつつ、使役主を真っ直ぐ見つめる猫妖精。優斗の表情もそのまま明るくなり……。
「おぉおおおおお! ブリンクーー会いたかったよぉおお! おーよしよし! このモフモフした毛並、間違いなく俺のブリンクだよーー」
「にゃーー! 優斗の匂いにゃーー! 優斗、うちも会いたかったにゃーー!」
モフモフされたブリンクが満面の笑みで優斗との再会を喜ぶ。そのまま顔をペロペロし、使役主の味を確かめ、じゃれ合う。エレナ王妃が微笑ましい光景を聖女のような笑みで見つめている。
「さぁ、これで役者は揃いましたね」
「え? 王妃、ブリンクって試練クリアしてるんですか?」
雄也がじゃれ合う二名の様子を眺めつつ、疑問を口にする。それを聞いた優斗がブリンクと戯れつつ返答した。
「あ、そっか。俺ブリンクと融合して雷精霊の試練クリアしたの忘れてた」
「忘れちゃだめにゃーー優斗ーー(ぺろぺろ)」
「ブリンクーーくすぐったいからーー」
「……なるほどそういう事ね」
雄也もそれを聞いて納得する。
「ま、よくよく考えたら、精霊の試練なんて優斗一人じゃクリア出来ねーよな。優斗は融合して最強みたいなとこあるし」
和馬がジト目で優斗を見つめる。
「ちょ、それを言うなよ和馬! 俺もそれ気にしてるから!」
――あらら、気にしてたのね
「さぁ、皆さん、準備はいいですか? 参りますよ!」
エレナの巫女の合図で、全員が居直り、頷く。
「大丈夫です、お願いします」
「お母様、よろしくお願いしますなのですよ」
「準備おーけーやん!」
「わくわくするにゃーー!」
「いつでもおっけーだぜ」
「嗚呼、お願いする」
「こちらも準備万端よーー」
皆の返事を待ったところでエレナの巫女が祈りのポーズを取り、静かに詠唱を始める。妖精界の古代語による詠唱が続き、魔法陣を取り囲むようにして置かれた神具がそれぞれ光を放ち始める。
やがて、エレナの巫女が懐より何かを取り出し、宙へと投げる。七色の宝石が宙に浮かんだ状態で、明滅を始め、それに呼応するかのように魔法陣が金色の輝きを帯びていく……。皆黙って神秘の光景を息を呑んで見守っている。
「水・火・雷・風・土・夢・聖――七つの属性晶石。精霊の意思を継ぐ五つの神具。そして、精霊に認められし御霊が集いました。虹色の軌跡は精霊の意思を受け、希望の橋を創り出す」
エレナの巫女が強く念じ、属性晶石の明滅が激しくなる。
「奇蹟の力よ、夢みる力は信じる心、希望の光。今此処に集いし願いを用いて、精霊神域へ導きの光を! ――夢見の虹橋!」
明滅した光がそのまま天上へと伸び、七色の光が収縮し、やがて虹色の架け橋を創り出す。天へと続く虹の架け橋。平和を願う者達の希望が今、形と成りて世界を繋ぐ。
「凄い……本当に虹の架け橋だ」
「本当夢の世界やん」
「これ、現実だよな」
眼前に起きた奇跡の光景。しばらく言葉を失っていた雄也達だったが、ようやく雄也達が口を開く。
「凄いにゃーーキラキラにゃーー! おんぷおんぷにゃーー」
「本当凄いわね、これ、何で出来てるのかしら」
ブリンクが虹の橋に触れ、目を音符にして輝かせている。ウインクも虹の橋をポンポン叩いている。
「これで精霊神域へと行けるんですね」
「すげーな。精霊の住む場所なんて一生行けるところじゃねーぜ」
リンクとファイリーも感動の声をあげる。精霊神域とはすなわち、妖精界を創世したとされる精霊が住まう場所。どこにあるかも知られていない。幻の地とされている領域だ。そんな場所へ行けるという事は妖精にとっては奇跡以外の何物でもないのだ。
「さぁ、皆さん、精霊界にて〝創世の女神〟が待っています。夢見の虹橋を渡り、精霊神域へ向かって下さい」
エレナ王妃が希望への道筋を指し示す。
「エレナ王妃、ありがとうございます。そこに世界を救う鍵があるんですね」
「ええ、雄也殿、全ては現地に行けば分かりますよ?」
「一番乗りにゃーー! 優斗行くにゃーーこっちにゃーー」
「ブリンク待っ、待て待て!」
ブリンクが優斗の手を取り、虹の橋を駆け上がっていく。
「ブリンクーー、待ちなさい! 和馬ーー行くわよーー」
「嗚呼、ファイリー行こうか」
「おぅ、相棒!」
ウインク、和馬、ファイリーがブリンクと優斗へ続く。
「お母様、行って参ります。後はよろしくお願いします!」
「妖精界の事は任せておきなさい。雄也殿と希望の光を見つけて来なさい」
母が笑顔で旅立つ娘を送り出す。
「分かりました、シャキーンです! 雄也さん!」
「ああ、行こうリンク。エレナ王妃、行って参ります」
絆を確かめるかのように手を繋ぎ、使役主と契約者はゆっくり虹の橋を上っていく。天上へ続く橋の先は神々しい光に包まれている。
妖精界と人間界、最後の希望は光の向こうへと消えていく。
雄也達は女神の住まう聖なる地――新天地、精霊神域へと足を踏み入れるのである。




