★第15話 花の街での戦闘
―― グォオオオオオオオオーー
人喰い草、ブラットローズ、悪魔の蔓……
数百近い妖魔と化した植物の群れが、呻き声をあげながら、花の街へと向かっている。数百の群れの最後尾には漆黒の花を咲かせた巨大なエビルプランターが控えている。
土煙をあげ、進撃を続ける植物の群れ……あともう少しで妖魔の恐怖が街を包む……というところで異変は起きる。
最前方にいた悪魔の蔓が、鋭い刃が風を切断するかのような音と共に、一瞬にして真っ二つになったのだ。
―― グ、グォオオオオオオーー
しかし、呻き声と共に、街へ向かう植物の群れは止まらない……。
スパッ、スパッ、スパッ……二匹、三匹、四匹……次々に悪魔の蔓が斬られていく。
―― グォオオオオオオーー
「ちっ、流石に一匹ずつじゃあ埒があかねーか」
女妖精がそう呟いた瞬間、前方で進んでいた植物達の動きが止まる……。
―― グ、ゴゴゴ!?
「―― 水の戯れ<静>」
シャボンに包まれた前方の植物達が弾けたシャボンと共に動きを止めていった。
「おぉ! やっぱりリンク、おめーの技いいな! 羨ましいぜ!」
「そんなことないですよーファイリーさん、これだけではあれは止まりませんからー」
前方を指差した先には巨大な植物が見える。
「まぁ、そうだろうけど、これでやりやすくなったぜ! 行くぜ! 炎陣!」
女妖精 ―― ファイリーが刃を振りかざした瞬間、炎が一気に広がり周囲を妖魔と化した植物達を焼き払った!
「リンク! 何匹殺れるか競争しよーーぜ!」
「嫌です! ――水爆砲!」
―― グァアアアアアアア!
水球に数体の植物が吹き飛ばされる。
「おい! なんでだよー、いいじゃねーか。火炎球!」
―― グォオオオオオオオ!
自身の刃で切り捨てながら、火炎球を放つファイリー。今度は数体の植物が炎に包まれた。
「この子達はもともと普通の植物さん達だったんです。なるべくなら〝水の戯れ<静>〟のように戦意喪失させるやり方が好ましいと思ってますからー。それにそういう勝負事はあんまり好きじゃないです。 ――水爆砲!」
―― グァアアアアアアア!
言葉と裏腹に水球を放つリンク。
「いやいや、そう言いながらおめーーー水爆砲連発してるじゃねーか! 行くぜ! 炎陣!」
―― グォオオオオオオオ!
水、炎、水、炎、相反する連続攻撃にどんどん数が減っていく植物の妖魔達……
「先生ー! どうしてあの子達はあんなに喋りながら余裕で戦えるんですかー?」
優斗がわざとらしい言い方で質問する。
「それは、お嬢様とファイリー様ですから当然です」
優斗の質問に答えるレイア。
「俺たち……出番なさそうだよね……」
「そうだな……」
雄也と和馬はリンクとファイリーを使役した状態で、後は二名に戦わせていた。
「さっすがーー僕のリンクだよねーー! てかあのファイリーとかいう女! 燃やしすぎだよー! もとは心優しい植物なんだよー! あれやりすぎだって!」
「いや、パンジー、リンクも充分同じような事してる気がするけど……」
雄也がボソっとパンジーに突っ込みを入れる。
「リンクはいいのー! 攻撃に優しさが籠ってるからー!」
パンジーはリンクには盲目になるらしい。
「あ、あれヤバくない!」
優斗が指差した先には、二体の人喰い草が花を大きな口のように開き、リンクとファイリーを食べようとしていた……のだが……!
「清き水よ、閃光となり、悪しき壁を突き破れ! 水流閃光!」
「あたいを食べようとするなんて百万年早いぜ! 我が剣よ! 炎を纏え! 火焔の刃!」
―― ガ、ガガ!
―― グゴゴゴゴゴ!
リンクとファイリーを食べようとした二体の人喰い草は、一瞬にして一体は穴があき、一体は炎に包まれた! 周辺に居た人喰い草も次々に倒されていく。気づけば妖魔と化した植物は巨大なエビルプランター一体のみとなった。
「す、すごいな」
「す、すげー!」
使役した雄也と和馬も思わず感嘆の声をあげる。
「でも、あいつがヤバいんだよ! 僕もどうすることも出来なかったんだ!」とパンジー。
「いえ、あの二人なら問題ないかと思います」戦況を見つめるレイア。
「レイアさんはいつも冷静ですね」と感心して見る優斗。優斗は感心するところが違う気がするが……。
「でも、万が一がありますから、雄也様と和馬様は透過の準備をお願いします!」
「わ、わかった!」
「おーけー!」
レイアの呼びかけに応える二人だった。
―― グ、グ、グォオオオオオオオオ!
仲間達が全てやられたのが分かるのか、エビルプランターは怒っているように見える。
「あなたも、すぐに浄化させてあげます!」
「すぐに楽にしてやるぜ!」
二名の言葉の意図が全く逆な気もするが、戦況を見守る事にしよう……。
―― グ、グォオオオオオ!
次の瞬間、大きな花が数回閉じて開く、開くと同時に『ドン、ドン、ドン』と、巨大な種のような塊がリンクとファイリーめがけて飛んで来た。地面に触れると同時に爆弾のように小爆発を起こす!
「いやぁ、服が汚れちゃいますーー!」
「おぉーそうこなくっちゃな!」
リンクもファイリーも華麗な動きで回避していた。
「あれは、僕のより強力な種子爆弾だよ。僕の扱える植物にはあんな巨大な花はいないから……あれは当たると危険だよ!」
「よし、雄也、俺たちも行くぜ!」
リンクとファイリーのもとへ走り出す和馬。
「え? え? いや、行っても邪魔に……くそーなるようになれ!」
やけくそになりながらも、後を仕方なく追いかける雄也。
「あの、優斗様は……行かれないのですか?」横に立っている優斗を横目で見つめるレイア。
「ん? い、いやぁ、俺は今回愛の祝福ってやつも使えないやん! 今回は足手まといになるやろし、パス! パス! 次回参加する事にするよー」
「優斗って……いくじなしだね」とパンジー。
「いやいや、パンジーちゃんも参加してないやん!」
「ぼ、僕もあんなのと戦えないし! ……っておめーに言われたくねーよ! しかも〝ちゃん〟って何だよ! 僕を子供扱いするなーーー」
優斗とパンジーのやり取りを余所に、戦闘は続く ――
次々と放たれる種子爆弾、地面に触れる度に土煙があがる。
「……水の戯れ<静>」
爆弾の攻撃を回避しながら舞を舞うリンク。
あたりがシャボンに包まれた……のだが……
ボーン、ボーン、ボーン、ボーン
残念ながら、泡もろとも爆発で消えてしまったのである。
「いやーーー、だめでしたー。やっぱり水の戯れのシャボンじゃああの種子爆弾は止まりませんねー」軽く舌を出すリンク。
種子爆弾を華麗に避けながら水の戯れのシャボンで視界を遮りつつ動きを止める作戦だったが、残念ながら落下していく爆弾の動きは止まらない。
「我が剣よ! 炎を纏え! 火焔の刃!」
エビルプランターの何本かの蔓を焼き斬ってみせるファイリー。
―― グォオオオオオオオオオオオオオオ
呻き声をあげつつ、エビルプランターの残った蔓がファイリーに迫る……がその蔓が迫る直前、残りの蔓まで焼き斬ってみせるファイリー。
「あたいの炎の刃は何もしなくても内部に炎を溜めている……火焔の刃は溜めている炎を刀身に引き出して一気に焼き斬る訳だが……」
話ながら刃をエビルプランターへ向け、回転しながら斬りつけるファイリー。
斬られた場所から、ボゥ! と炎が巻き上がる。
―― グォオオオオオオオオオオオオ
表情はないものの、エビルプランターがまるで嫌な表情をしているかのように怯んだように見えた。
「放出する量をある程度調節する事で、効果の持続時間を短くも長くも出来る訳さ。一回斬っただけで終わったと思うのは大間違いだぜ!」
エビルプランターの蔓が焼き斬られていく。蔓でファイリーを縛りあげようなど無理な話なのだ。
「清き水よ、閃光となり、悪しき壁を突き破れ! 水流閃光!」
シュィイイイイイイイイイイン!
エビルプランター本体へ向けられ放たれた清き水の閃光は本体の中心を一気に貫いた!
エビルプランターの纏っていた負の妖気力が少し弱まったように見えた。
「ファイリーさん、あれ!」
リンクが指差したエビルプランターを貫いた本体の中心。そこから何か光が漏れている……。
「なるほどな、あそこを斬ればいい訳だな!」
「な、なにあの光!」
「なんか中心の核みたいだよな」
雄也と和馬がちょうど駆けつけたタイミングだった。
「え? え? どうして雄也さん来たんだすかー! 和馬さんも! だめです、危ないです!」
「あ、それは和馬が……」
「でもお前等遅かったな! こいつはあたいが仕留めるぜ!」
そういうと、エビルプランターの中心へ向けて飛びかかるファイリー。
次の瞬間、エビルプランターの巨大な花から黄色い何かが放たれる!
噴出された黄色い霧のような何かが、飛び上がったファイリーを包み込んでしまった。
くっ! 思わず声をあげる赤眼妖精。
「だめです! あれは痺れの花粉です!」
リンクが叫ぶと同時に走り出す。
そのまま地面へ落下しそうになるファイリーを、地面すれすれでリンクが受け止める。そのまま尻持ちをつく形で折り重なる蒼眼妖精と赤眼妖精。
「くっ、か、和馬ーーーー!」
動けない身体で叫ぶファイリー! 和馬は呼ばれる前に既に走り出していた。雄也も気づいて追いかける。
そう、リンクとファイリーが危ないのだ。今自分達が動かないでどうするんだ。
エビルプランターは本能で何をすべきかわかっていた。
中心の核がむき出しになった瞬間、標的はそこを狙ってくるのは分かっていた。予想通り一体自身に向かって飛び出して来た、後は標的へ向けて痺れの花粉を放つだけ。標的はそのまま地面へ落ちていく。落ちていく標的へ向けて種子爆弾を放とうとしていた。最早敵の反撃はない――そう思っていた。
―― !?
なぜか、自身の中心が熱かった。焼かれたような熱さだ。なぜあの炎の使いが目の前に倒れているのに熱い……。水の使いも目の前に……。
―― !?
炎の使いがもといた場所に二人の男が立っている。アイツラガヤッタノカ?
―― ウゴオオオオオオオオオ!
全身を焼かれ、エビルプランターが最後の力で種子爆弾を放とうとする!
「攻撃透過! 接続! 熱くなれ! 透過焔刃!」
和馬がそう言い放つと同時に和馬の持っていた短剣が赤く染まり、刀身に炎の力が籠った。
「そして、ここから俺のオリジナルだ! 焔刃投擲!」
和馬は既に短剣の扱いに慣れていた。リンクとファイリーを襲おうと迫るエビルプランターの中心へ向け、炎を纏った短剣を投げたのだ! 放たれた焔刃はエビルプランターの光る中心に突き刺さり、一気に炎で染め上げる!
―― ウゴオオオオオオオオオ!
内部が炎で焼かれたエビルプランターが苦痛の声をあげた。
「よっしゃーーー」
―― グァアアアアアアア!
エビルプランターは炎に包まれた次の瞬間、最後の力を振り絞り、種子爆弾を放つ体勢をしていた!
「攻撃透過! 接続! 打ち砕け! 強化水撃!」
エビルプランターが種子爆弾を放とうと花を閉じた瞬間に、花へ強化水撃が当たる。
「お、おい! 雄也! 水放ったら火消えるだろ!」と怒る和馬!
「いやいや、違うから!」
そう、雄也の意図は違っていた。
花を閉じ、種子爆弾を溜めていたところに強化水撃が当たり、その衝撃で、見事にその衝撃で……エビルプランターの花の中で種子爆弾は爆発したのだった。そのまま後ろにドーーーンと倒れるエビルプランター。エビルプランターは負の妖気力を無くし、そのまま小さくなっていった。
「な、なんだよ、そういう事かよー。早く言えよー」と軽くどつく和馬。
「いやいや、言うタイミングなかっただろ!」と雄也。
「雄也さん、和馬さん、やりましたねー! 凄いですーー! シャキーンですー!」
「おー和馬ー今のは助かったぜー。あんなのにやられるとはあたいもまだまだだな」
リンクとファイリーが近づいて来た。
「おーい、みんなーーすげーよーやっつけちゃったやん!」
「お疲れ様でした皆様」
「さっすがー僕のリンクだね!」
優斗とレイア、パンジーが雄也達の下へ駆け寄る。
「お、おい、優斗……お前だけなんで参加してないんだ……?」
「え? いやぁ、和馬さん、そりゃあ俺は妖精居なかったからさー」
「お前やっぱり荷物持ち決定だな」
「ちょ、待っ、待ってって! 次は戦うからさ」優斗が必死に弁解をしていた。
「それにしてもみんな強いね! 僕も頑張ってみんなに負けないように強くなるよ。本当にありがとう」パンジーがお礼を言う。
「パンジーこれくらい平気だよー。それに、これで安心して光の国へ行けるね」
リンクがそういった事で改めて気づいた。戦いに夢中だったが、本来の目的地は光の国だったのだ。
「そうだった。今のですっかり忘れてたよ」と雄也。
「お嬢様の言うとおり、まだまだ旅は始まったばかりです。気を引き締めていかなければなりません。それからパンジー様、これを」
見ると、レイアがパンジーに何かを渡していた。水晶のような何かだった。しかし、どこかで見覚えがある……。
「あ、それ……確か……」雄也も気づく。
「え? これって夢の欠片? それもこんなに大きな! どうしたの? これ?」
「あちらのエビルプランター……今は小さな花になっていますが、エビルプランターの横に落ちていました。恐らくあのエビルプランターの中に、この夢の欠片があったようです」
「雄也さん、そうです、あの時の夢の欠片と一緒です。アクアエレナに還ったあと、お母様にも聞いたんだけど、負の妖気力の増大とこの夢の欠片……深く関係があるかもなんです……」
そういうと、
リンクは夢の欠片について、
エレナ王妃に聞いた事を話してくれた ――




