第14話 花の街へ
水の都から花の街までは馬車で行く事になった。
花の街へ向かうには、水の都を首都とする水の国と、土の国の国境を渡る事になる。
先日までは水の国も闇に閉ざされていたため、国境の門は閉じていたものの、雄也達の活躍により、国境の門は開いていた。これがパンジーが問題なく水の都へ到着出来た理由である。
ちなみに馬車……といってもさすが王女ご用達……なんと正確には馬車……ではなく……。
「なぁ、これってケンタウロスって言うんだよな? 確か?」
「すげーーーー! 生で初めて見るやん! これぞ異世界やん!」
「神話とかで出てくるやつだよね?」
「王室ご用達のケンタウロス馬車です! シャキーンです!」
とみんなの反応にエヘンといった表情のリンク。
「皆様よろしくお願い申し上げます」
執事風のケンタウロスが器用に片足を胸にあててお辞儀をする。
「あ、そういえば今回はくまごろうじゃないんだね?」
雄也がふと疑問を口にする……。
―― こっちとしては安心なんだけどね……。
「―― にゃあー! 呼んだくまか? 」
雄也の足下……目の前にくまは居た。
「うわぁ! びっくりしたーー!」
「雄也が呼んだんで出て来たくまー」
「くまごろうさんは今回私の膝の上です。たまにはのんびりの旅もいいですよ」とリンク。
「くまごろうで国境を猛スピードで抜けるのは犯罪者と間違われますからね」
と、レイアが核心をついた台詞を言っていた。
「リンクがそうするなら僕もウリリンを呼ぶ事にするよー。出番だよーウリリンー!」
「ムムムーーーゥ!」謎の鳴き声と共に出てくる猪っぽい獣。
「そういえばこないだ紹介してなかったねー。妖獣イノムーのウリリンだよー。よろしくねー。まぁ、僕のリンクはもう知ってるけどねー」
「ムムムムムーーー(よろしくムー)。ムム!」
ウリリンがペコリとお辞儀をした瞬間、なんとウリリンの目の前に刃がささっていた!
「え? ちょ!? 何!?」
驚いたのはパンジーだ。あまりの一瞬の出来事……いや速さについていけなかったのだ。
「ムムムーーー」急いでパンジーの後ろに隠れるウリリン。
そこに刃を向けたのはなんと……
「おい、そこの食料を寄越せ!」
「ムムムムーーー(食料じゃないムー)」
プルプル首を振るウリリン。
ウリリンの丸まるな瞳がうるっとしている。
「ちょ、ちょっと待ってよファイリー! どうしてそうなるの?」
「どうしてって、お前、妖獣なんて食料だろ! ただでさえ毎日肉にありつけるなんて貴重なんだからよ、目の前に肉があったら狩る! それが鉄則だろ?」
と刃をむけるファイリー。
「リンクー、この人どうにかしてー」
「ファイリー! ウリリンはパンジーのお友達なの! 炎の国では妖獣とはお友達じゃないかもしれないけど、自然な事なの!」ファイリーに迫るリンク。
「いや、でもよ、貴重な食……」
「ムムムムーーーー(食料じゃないムー)!」
ウリリンの言葉が分からない雄也達もこの時ウリリンが訴えている事が分かった気がしたのだった。
「待つくまー! ウリリンも食料じゃないムーって言ってるくまーー! 食べても美味しくないって言ってるくまーーー!」
「食べても美味しくないと言ってるかは分かりませんが、ファイリー様、ここはお嬢様の顔に免じて引いて下さいませんでしょうか?」
レイアがリンクの横に立ってファイリーへ告げる。
腰に手を添えているのは小太刀か何か隠し持っているのだろうか? このメイドさん、さすがリンクのお付きだ。
「ちっ、しょうがねーな、わかったよ。その代わり野生の妖獣出てきたら捕まえて食料にするからなー」と剣をしまうファイリー。
「本日の食料なら心配要りませんよ」
なんと腰から出てきたのは……漫画なんかでよく出てくる燻製肉だった!
「おぉおおおお! すげー! 何だよ! そんなの持ってるなら早く言えよー!」
目が瞬間輝く赤色の瞳。
「あのー、レイアさん、そこのメイドのお姉さん、どこからそんなお肉出てくるんですか?」
いつもすげー言ってる優斗もさすがに驚いた模様。
いや、腰から小太刀じゃなくて燻製肉は誰も予想出来ないよね……。
「おー、うめーー(もぐもぐ)……和馬も食う……(もぐもぐ)か?」
食いかけの漫画肉を渡すファイリー。
「い、いや……俺はいいぜ、ファイリー……」
和馬はあまりの展開についていけてなかったようだ。
「ん、そうか? (もぐもぐ) じゃあ・たいが・・るぜ!」
「よかったですねーウリリンさんー」相変わらず穏やかなリンク。
「よかったくまーーこれで安心くまーー」
「ムムムーーームムムムーー(ありがとうムー助かったムー)」
ウリリンはくまごろうにスリスリ頬ずりしていたのだった。
国境では流石お姫様、門番に敬礼されて何事もなく通過した。
ケンタウロス馬車は結構広く、前後に席があり六名から詰めると最大八名は乗車出来る。
ちなみにパンジーはウリリンと一緒にケンタウロスの前をドドッドドッとゆっくりめに進んでいる。花の街までパンジーが先導する意味もあるが、ファイリーと同じ馬車に乗るのをウリリンが強く拒否したのである。
まぁ、さっきの出来事があったのだから仕方ないだろう。
道中リンクが各国の食文化を色々教えてくれた。
大地の恵みが豊かな水の国と土の国は、農作物もよく育つ。果実や野菜、人間界で採れるような穀物やきのこもあるらしい。水の都は綺麗な川を泳ぐ魚なんかも採れる。水の国と土の国はお互いの土壌で採れた農作物を交換、つまり人間界の言葉を借りると輸出入している事になる。
事実、今馬車に乗っている状態で、レイアが作ったサンドイッチを食べている。
「オハヨー鶏の卵を挟んだ玉子サンド、トロトロサーモンと野菜のサンド、コロコロ豚のカツサンドでございます」
「すげーな、人間界と変わらない旨さだ」
「うん、これは美味しい」
「ヤバイやん、これめちゃ旨いやん!」
「これは炎の国に全くねー食べ物だぜ……」
「レイアの料理は妖精界一なんです! シャキーンです!」
「トロトロサーモンはくまごろうが採ったくまよーー!」
くまごろうまでリンクの膝の上で自慢気だ。
どうやら、くまごろうはむささびの姿になって川魚をまるで鷲や鷹のように急降下して鋭い爪で狩るらしい。うん、一度それ見てみたいね。あ、ちなみにトロトロサーモンって、人間界のトロサーモン……というよりは鮪と鮭が一緒になったような魚らしいですよ、はい。
それに比べて炎の国は、豊かな土壌がない。実際のところ、山や森はあるのだが、あるのは木の実や果実くらいで、幼獣が多い。ウリリンと同じイノムー、水晶の塔にも出て来た、耳の長い兎型のミミナガウサギ、くまごろうと同じむささび熊、牛馬などなど。
炎の国の妖精は人型妖精の妖精人がほとんどで、あとはミノタウロスやケンタウロスなどの獣人族くらい。土地柄か熱い性格の者が多く、畜産という概念がほとんどないらしい。本当原始時代かよ、と思うくらいの狩猟文化なんだそう。
かくいう和馬も炎の国に滞在中はよく分からない肉をいっぱい食わされたらしい。
「まぁ、牛馬ってのは癖はあるけど旨かったな 」と和馬。
「あれ旨いだろ! まぁそれも、あたいの炎のミディアムレアな焼き加減のお陰だけどな!」
嗚呼なるほど、火妖精だけあって火には困らないって訳ね。
「皆様、そろそろ着くみたいですよ」レイアが前方を促す。
そうこうしているうちに目的地へと着いたみたいだ。
少し先を行っていたパンジーが手を振っている。
目の前には黄色や赤、橙、青……色とりどりの花に囲まれた街、花の街の入り口があった……のだが……。
「ひ、ひどい……」リンクが哀しそうな表情をしている。
「こ、これは……」雄也も驚きを隠せないでいた。
厚い厚い雨雲のような漆黒の雲に覆われた大地……。そこに広がる色とりどりの花達は、花弁を閉じたもの、萎れてしまったもの、茶色く枯れてしまったもの……普通に咲いている花は一輪もなかった。
「この雲に覆われてからだんだん元気がなくなってしまって……今ではこの有様なんだ……」
パンジーも沈んだ表情になる。
「だいじょうぶくまー、パンジーもリンクも元気出すくまー!」
「ムムムームムムムムムーーー(そうだムー、元気出すムー)!」
いつの間にかくまごろうとウリリンが意気投合しているようだ。
「そうですね、くまごろうさん、ありがとう、シャキーンですね!」リンクに笑顔が戻る。
「まぁ、あたいらが来たからには一気に問題解決間違いなしだぜ!」とファイリー。
「その点は相違ありませんね。安心して下さい、パンジー様」とレイア。
「みんな、ありがとう!」少し笑顔になるパンジー。
「……パンジーーーーーパンジーーーーー!」
その時、遠くからパンジーを呼ぶ声が近づいて来た。
あれは……姿からしてミツバチだよね。蜜蜂のような姿だけど顔がある。蜜蜂の妖精といったところだろうか?
「あ、ハニリム! どうしたのー? そんなに慌てて 」
「た、たいへんなの! ……『エビルプランター』が街に……向かってる!」
「……そ、そんな!」パンジーの顔が青ざめる。
「な、なにパンジーどうしたの?」とリンク。
「リンク、みんな、僕がこないだ光の国に向かった時、国境手前の丘に負の妖気力に侵された植物達が道を塞いでいて先に進めなかったって話、したよね? 『エビルプランター』はその親玉みたいなものなんだよ! あんなのに街が襲われたら花の街はひとたまりもないよ……」
「そうだよー、街の妖精達も慌てて逃げようとしてるけど、もう間に合わないよー」慌てふためくハニリムと呼ばれた蜜蜂姿の妖精。
そんなパンジーやハニリムを余所に、二人……いや二匹になるのか? ……の前に並ぶかのように他のメンバーが並んだ。
「なんだ、敵さんがそっちから来てくれたんだろ? そりゃあ好都合じゃねーか?」
「ファイリーと俺のコンビプレーを見せる時が来たみたいだな!」ファイリーと和馬も乗り気だ。
「俺妖精居ないけど、とりあえずルナティーから貰ったこの鞭で身を守っとくわ」ちょっと後ろ向きな優斗。
「まぁ、大丈夫だよ、リンクやレイアも居るし」
「そうです、雄也さんの言うとおりです。安心してシャキーンしてて下さい!」
「さぁ、お嬢様、皆様、参りましょう!」
「え、え? この方達ってもしかして……パンジーの友達の?」
「うん、そうだよ! 僕の友達のリンク! 水の都のお姫様! そして、その仲間達だよ!」
「その愉快な仲間達のような扱いは辞めて欲しいんだけど……」思わず呟く雄也。
「だって、本当の事じゃん! ま、まぁ雄也は一応、僕の契約主って事にはなるから、紹介してやってもいいけどな」
「え、凄い! お姫様とそれに契約主って……パンジー、人間と契約したの? きゃーー凄いーーー何その熱い展開ーーーきゃーーーー!」
なんか……急に蜜蜂妖精が、彼氏が出来た友達の初報告を聞いた女子高生のようなテンションになったのは気のせいだろうか?
「うん、ま、まぁね。それはいいからさ、リンク達が居るからもう安心だよ! よし、じゃあハニリム、『エビルプランター』のところに案内して!」
「きゃーーきゃーーお名前雄也さんって言うのですかー? ハニリムです! よろしくーー! きゃーー人間の男の子って初めてーー」雄也の周りをひらひらと飛びまわる蜜蜂妖精……。
「あちゃーこりゃあ聞いちゃいないな……」と呆れるパンジー。
「あ、ごめんごめん、つい興奮しちゃって! うん、わかった! あっちだよ、みんな気をつけてね!」
こうして『エビルプランター』のところへ向かう一同。
いよいよ……花の街での戦闘が始まる……。




