第11話 花妖精vs水妖精
先ほどの展開より、雄也とパンジーとの戦いになる……となりそうだったのだが……
「ちょっと待ってよ! どうして僕がリンクと戦う事になるの?」
水球の爆発を植物の蔓で防ぎながらパンジーが叫ぶ!
「パンジーが雄也さんと戦うって言ったんでしょう! 使役主と戦うという事はその契約者である私と戦う事になるからです!」
「僕はあいつが君にふさわしいかを見たいだけなんだ! リンクが入って来る事はない!」
「ふさわしいか見極めるなら、より一層契約者の力を使役主が使いこなしているかを見極めるべきじゃない?」
そう言いながらもう一発水球を放つリンク!
雄也の事を責められたので怒ってくれているのだろうか? いつもより心なしか語気も強い。
「もう! どうなっても知らないよ?」
そういうとパチンと指を鳴らすパンジー。
地面から植物の蔓が数本現れ、リンクを縛りあげようと襲いかかる。
リンクはそれを回避しながら流れるような動きで舞を舞う。
「いくよ! 水の戯れ<動>!」
リンクが華麗な舞を踊り終わると、刹那リンクの周りに水流が巻き起こり、全ての蔓をカッターのように切りはらってしまった。水流はそのままパンジーを襲う。
「甘いよリンク!」
そういうとパンジーはなんと空中へ浮かぶ! そう、パンジーには羽根があった。
空中に浮かんだ状態のまま、持っていた弓で矢を放つパンジー。それを華麗な動きで避けるリンク。
「そう簡単には当たらないよパンジー!」
当事者である雄也はじっと見ているだけしか出来なかった。雄也に攻撃を加えようとしたパンジーだったのだが、そこにリンクが待ったをかけ、使役されたリンクが入る構図となった。
レイアも同じように戦況を見守っているようだ。
「妖精同士の戦いって、中々激しいな」
和馬も驚いたように見つめている。
「あのパンジーもなかなかだけど、リンクって、やっぱり強いやん」と優斗。
「でも、逃げてるばっかりじゃ僕を攻撃出来ないよ!」
矢を放ちながら、再びパチンと指を鳴らすパンジー。リンクの足元から出た一本の蔓がリンクの片足を縛りあげる! 弓矢に気を取られ一瞬反応が遅れたのだ!
「かかったね! 行くよ!」再び矢を放つパンジー。
「リンク! 危ない!」雄也が思わず叫ぶ。
「いえ、大丈夫です雄也様!」しかしレイアは大丈夫だと言う。
足を取られ動きが取れないかに見えたリンクは、放たれた矢を手に持った武器で全て弾いていた。以前教えてもらったが、接近戦用に持っている氷砕刀というらしい。前回のボス戦闘ではあまりにムキムキの相手だったので使えなかったのだろう。氷砕刀を器用に扱い、片手で矢を弾き、もう片方の手は魔力を込めているようでなにか呪文を詠唱している……
「雄也様に使役されている私は正の妖気力を何倍も行使出来ます。今のパンジーでは勝てないですよ? 行きますよー、雄也様をいじめようとしたんですから、ちょっぴり痛いですよ? ――水爆柱!」
瞬間、空中に浮かぶパンジーの真下に当たる地面に水たまりが出来る。水たまりはだんだん渦を巻き……
「え? 何? きゃああああ!」
水溜まりはやがて巨大な水柱となり、地面が揺れる程の衝撃と共にパンジーを襲った。ふらふらと地面に着地するパンジー。
「こ……こんなの聞いてないよ……」
「雄也様との契約があるからこの強さなんです。シャキーンなんです! だからパンジー、雄也さんを認めて下さい」
勝負はあったようだ。
「くそ……悔しいけど、僕の負けみたいだね」
「でも、パンジー、痺れの花粉や種子爆弾を使ってなかったって事は、まだ本気じゃなかったんじゃないの?」
「リンクにそんな姑息な手段使えないよ。正々堂々戦いたかっただけだよ」
怒りに任せての戦闘ではどうやらなかったらしい。相手を麻痺させるのと蔓で相手の動きを止めるのとあまり大差がないような気もするけれど、あまり考えないようにした。恐らく本人なりの信念があるのだろう。
「パンジー様、お待ち下さい。彼の者に癒しの祝福を! ――治癒光」
レイアが回復魔法を唱えると、先ほどの戦闘の傷が癒えていった。
―― 何気に回復魔法って初めてみたよ。
「すげー、回復魔法やん! さすがメイドさんすげーな!」と感心したように見る優斗。
「レイアが居たから私も安心してパンジーと遊べたんですよー」リンクに笑顔が戻る。
―― え? 遊び? 遊びであの水柱なんですか? 何それ怖い。
「リンク酷いなーこっちは充分本気だったってのにさー。でもこれではっきりしたよ。リンク、お願いがあるんだ。僕の住んでる『花の街』が大変なんだ! 今のリンクなら百人力だよ。一緒に来てくれないかな?」
「それはどういう事ですか、パンジー様。」
代わりにレイアが尋ねる。
パンジーが話し始める……。
「最近昼と夜の境がなくなったのは水の都も一緒だよね? 水の都は水晶の塔が復活したお陰で元に戻ったんだよね? 花の街は知っての通り、土の国の中の小さな街だけどさ、豊饒な土地と、水の都から流れてくる聖なる水、さらには光妖精が司る光の力があってこそ、花が咲き、農作物が育つんだ。光の国からの光が途絶え、つい先日まで水の都からの聖なる水まで流れて来なくなっていたから、花の街は大混乱だったんだ」
「パンジーのところも大変な事になっていたんだね。私達の水が届かなかったせいで……ごめんなさい」リンクが申し訳なさそうに謝罪する。
「いやいやリンクが謝る必要ないよ! それで、僕達もなんとかしようと、光の国に行こうとしたんだけど、国境手前の丘には負の妖気力に侵された植物達が道を塞いでいて、先には進めなかったんだ。花の街は小さな街だから軍隊なんてないしね。土の国へ助けを求めても音沙汰なし……。花が枯れていくのをなすすべなく見ていたところに、水の都の復活を知ってね。それでこうして駆けつけたのさ」
「よし、俺達がなんとかしよーじゃねーか。その光の国とやらの光が復活すればいいんだろ?」
と早速和馬が言う。
「でも、僕はリンクに相談しようと思って来ただけで、まさか人間の君たちの助けは借りられないよ……」
とパンジー。
「大丈夫です、パンジー! 雄也さん達はみんないい人達ですから! 雄也さんの友達だから間違いないです」
「これだけ信頼されている雄也を見ると羨ましいよ」うんうんと一人頷く優斗。
「それに、雄也様達も、何か思うところがあって、妖精界へと戻って来たのではないですか?」とレイア。
「実は、そうなんだよ。もしかしたら僕らの町……つまり人間界で起きている事件と関係しているかもしれないんだよ」雄也がそう告げる。
「そ、そうなのか?」と驚くパンジー。
「じゃあ、積もる話もみなさんあるみたいですし、詳しくはディーネリア宮殿でお話しましょう。作戦を立てるのです!」リンクが提案する。
「そうだね、そうしよう」
「だな」
「おーけー」
三人が同意する。
「ありがとうリンク……やっぱり僕のリンクだよ! それからそこの使役主!」
「え? 俺の事?」雄也が驚いたように向き直る。
「さっきは悪かったね……一方的に責めてしまって……」ばつが悪そうに謝るパンジー。
「あ、いや、大丈夫だよ、わかってくれたんなら」
「ありがとう。よし、決めた! えっと雄也! 僕と契約して使役主になってよ!!」
……
……
「な、なんだってーー」
……まさかの展開に、三人同時に驚くのであった。




