★第10話 花妖精パンジー
ドドドドドドドドドドド……
「嗚呼、リンク。どうして君はリンクなの?」
ドドドドドドドドドドド……
「嗚呼、君の事を考えると、僕は夜も眠れなくなるよ」
ドドドドドドドドドドド……
「嗚呼、ようやく君に会えるんだね……」
アクアエレナの街を宮殿に向かって猛烈な勢いで何かが駆け抜けていく。その何かを見事に乗りこなしている可愛らしい妖精。彼女の名前はパンジー・フラワリー。背は百三十センチくらいで小さめ、黄色い花の髪飾り、花をあしらったようなローブにひらひらのカラフルなフレアスカート。妖精らしい羽根も生えている。背中には弓矢を背負っている。そんなパンジーは今まさにリンクの元へと向かっていた。
ドドドドドドド……キキキーー!
何かに乗った妖精は、水の都の宮殿内へそのまま突入し、大広間で急ブレーキをかけた。どうやら猪っぽい動物に乗っていたらしい。
「ありがとう、ウリリン! リンクー、愛しのパンジーが会いに来たよー!」
パンジーと名乗った妖精が大広間でリンクの名前を呼んだ。
「貴方様は確か、リンク様のお友達のパンジー様でしたね。リンク様でしたら、つい先ほどレイア様とお出かけになりましたよ?」
宮殿の兵士がパンジーに声をかける。
「えぇ? そんなぁ、せっかくリンクに会えると思ったのに! どこ? 僕のリンクはどこに行ったっていうの?」
「ええ……確かリンク様の使役主様が妖精界へと戻られたという事で、迎えにいくとおっしゃってましたね……」
その言葉に衝撃を受けるパンジー。
「え? え? 今……使役主って……そ、そんな? 私という存在が居るというのに人の子になったっていうのー!? で、リンクはどこに居るの?」
「確か……ウォータリアの森へ向かうと……」
「わかったわ、ありがとう。ウリリン行くよ! リンクをそそのかした人間がどんな男かこの目で確かめてやるんだから。いっそ僕の手でそいつの息の根を止めてやってもいいよ」
可愛い顔をしてとても怖い事を言うパンジー。
ドドドドドドドドドド……
そして、ウリリンと呼ばれた猪のような生き物に乗り、リンクの下へと再び走り出すのであった。
記憶の魔法陣は無事に発動したようだった。あのあと光の粒子に包まれ、視界が明るくなったかと思ったら、気づいたら目の前の景色が森になっていた。
「どうやら水霊の森……ではなさそうだな」
そう呟く和馬。
なんとなく空気が違うのだ。よく見ると生えている植物も人間界にはないようなものもたくさん生えている。
「よかった。成功したみたいやん」と優斗。
「とりあえず目的地へ向かおう!」
そう雄也が言った事で三人ともある事実に気づく……。
「目的地ってどこだ!?」三人同時に顔を合わせた。
よくよく考えると、妖精界に行くって事しか考えてなかったのだ。そもそもこれから何を手掛かりに動いていけばいいのかも分からない。しかもどこに繋がっているからという前情報をもらっていなかったため、今どこに居るのかさえ分からないのだ。
「水無瀬のやつ、肝心な情報言ってねーじゃん!」悪態をつく和馬。
三人が途方にくれかけたその時、
『もしもーし、もしもーし、聞こえますか?』突然どこからともなく声が聞こえた。
「あ、この声は……もしかしてリンク?」声の主に話しかけたのは雄也だ。
『わーい、雄也さんだー! こっちに来れたんですねー! 早速遊びに来てくれたんですか? 今そっちに向かってますので待ってて下さーい!』
「いやぁ、色々事情があってね……ってこっちに向かって来てくれてるの? それは助かるよ」
『はいー、そこは水の都の南に位置するウォータリアの森です。もうすぐ着きますので、のんびりお茶でもしていてください』
「あ、ありがとうリンクー」
そういうと水鈴からの通話が切れた。
「もしかして、今のがお前の契約したっていう妖精か? 雄也の癖して、お相手が随分と可愛らしい声の主じゃねーか?」とからかう和馬。
「いやいや、お相手ってなんだよ……」と戸惑う雄也。
「俺もモニターごしに見てたけどさ、雄也の妖精、可愛らしいのに強いんよ。水妖精で踊りながら水を自在に操るんよ」優斗が解説する。
「強さで言ったらこっちも負けてねーぜ。あ、つーか雄也が出来るんなら俺も会話出来るって事じゃね?」
そういうと和馬は、腕につけていたリストバンド――否、人間界で確かにリストバンドだった和馬のそれは炎をあしらった腕輪に代わっていた。
「あれ? 和馬そんなのいつつけたの?」
「雄也、よく気づいたな。これ、人間界では違和感ないようリストバンドになる仕様らしいぜ。紅の腕輪っていう名前らしい。えー、あー、おーーい、聞こえるか?」
すると、腕輪ごしに声が聞こえて来た。
『ザザ……ザザ……ん? お、その声は……和馬じゃねーか! もうこっちに戻って来たのかよ。あたいに会いたくなったのか?』
「違ぇーよ。ちょっとこっちに用事があったんだよ。でもたぶんあんたの力、また借りる事にはなりそうだから、その時は頼むぜ!」
『ふん、あたいを誰だと思っているんだい? 炎刃の赤眼妖精、炎の国のファイリー・フィリーと言えば、あたいの事だぜ? 忘れてもらっちゃあ困るぜ和馬ー』
「おう、あんたの力は充分分かってるさ。だから頼んでるんだろ?」
『オーケー相棒! じゃあ何からあったらいつでもあたいを呼ぶといいさ。じゃあな!』
そういうと通話が切れた。なんかリンクとは全く正反対な雰囲気の妖精だ。
「炎刃の赤眼妖精ってまた凄い通り名だねー。(すっげー異世界っぽい通り名だしさ)」と感心したように言う優斗。
「んで、お前んとこはどうなんだ優斗」と和馬。
「え? ああ、うちね……別に呼ばなくてもいいと思うけど……ちょっと待って。えー、もしもしーー聞こえるールナティー居ますかー?」
おそるおそる愛の指輪へ向かって声をかける優斗。が、返事がない。
「あれ、居ないのかな? おーい、ルナティー、妖精界に優斗が来ましたよー?」
ザザ……ザザザーー……ザザ……雑音と共にわずかに声が聞こえた。
『……あ……めん……優斗……ちょっと今立てこんでるのよ……しばらく使役しようとしてもそっち行けな……またね、一旦切るわね』プツッ!という音と共に、そのまま通話が切れてしまった。
「あら、なんか大変そうみたい」
「妖精も色々忙しいんだね」と雄也。
どうしたんだろう……何もなければいいんだけど、とちょっと心配になる優斗。
「…………也さーーん……雄也さーーん!」
そうこうしているうちにリンクの声が遠くから聞こえて来た。だんだん近づいてくる。
「ん? あれ何に乗ってるんだ?」
目を凝らす和馬、そして……。リンクの水色の羽衣がだんだんはっきり見えて来た。
「雄也さーーん、お待たせしましたぁああああああーーーー」
皆さん、突然だが、ドップラー効果をご存じだろうか? 音の波が発生源と止まっている自分との相対的な速度差において、周波数が異なって聞こえる現象の事を言う。救急車のサイレンが、最初高い音で聞こえていて、自身の前を通り過ぎた瞬間からだんだん低い音へと変わって聞こえるあの現象だ。
何が言いたいのかというと、リンクの声はドップラー効果により、高い声から一転、低く聞こえたのである……つまり、くまごろうがあまりに速すぎて、止まり切れずに雄也達の前を通り過ぎたのだった。
「いま……通り過ぎたよね?」
「うん、そうだね…」
「だな……」
三人同時にリンクの向かった先を見ていた、その時、さらに背後から声がした。
「リンクーーリンクーーーー」
ん? 今度は何だ?
ドドドドドドドドドドド……
何かが迫って来るような音も聞こえてくる。
「リンクーーーーリンクぅぅぅうううううう」
ドドドドドドドドドドド……
はい、本日二回目のドップラー効果は土煙と共にお送りします。
雄也達、目の前の土が煙となって舞い上がる。
「ゴホッゲホッなんだ……今の?」
「ゴホッ……今のなんだったんだ?」
「リンクーって言ってたよね今?」
二つの超高速物体が通り過ぎた先を見つめていると、順番に減速しながら、それぞれが引き返して来た。
「雄也様ーごめんなさいー。くまごろう飛ばし過ぎました」リンクがペコリとお辞儀する。
「調子に乗ったくまーーごめんにゃあああくまーー」頭を下げるくまごろう。
そして、初めてお目にかかるくまごろうに混乱する優斗と和馬。
「お帰りなさいませ、雄也様……ところで雄也様、こちらのお二人は?」
レイアが雄也に質問する。
「リンク、レイア、ただいま。えっとこの二人は優斗と和馬。俺の友人だよ。あ、それこそあの時、夢妖精と子供助けたのが優斗だよ」
「ああ、じゃああの時の愛の祝福はあなたの妖精さんでしたか。その節はお世話になりました」
再びペコリと頭を下げるリンク。
「あ、いえいえ、俺は何も……。ところで、そちらのメイドさんはリンクさんのメイドですか?」
「あ、はい、そうですよー。私の直属メイドのレイアです」
「うわー凄い! 俺優斗って言います! 本物のメイド初めて見ました。すげー感激ですよ。握手して下さいーー!」と両手でレイアと握手をかわす優斗。
「あ、あのー……そう感激されても私はただのメイドですから……」
「いえいえ、その異世界のメイドってのが定番っぽくていいんですよーいやぁー感激だなぁー」
「俺は優斗のその趣味はわかんねーんだよなー。(それにしてもなんか……さっきから視線を感じるんだよな……気のせいか……)」和馬が一人そう思っていると……。
「おーい、さっきから横に居るんですけど? どうして気づかないかな?」
気づくと花の髪飾りと同じく花をあしらったフレアスカートが特徴の妖精が、リンクの横にいつの間にか居たのである。いやむしろ、さっきのやり取りの際には既に横に居たらしい。
「うわぁ、びっくりした! ……って、あれ? パンジー? どうしてここに?」
「いやいや、『どうしてここに?』じゃないよー。君に会いたくて僕はここに来たんだよー。会いたかったよーリンク」
「この子は誰?」雄也が尋ねる。
「あ、えっとこの子は私の妖精友達のパンジーです。パンジー・フラワリー。水の都の隣にある花の街に住む花妖精です」
「へぇー花妖精なんてのも居るんだね。よろしくね」
「よろしくねーじゃねーよ。おめぇーか、うちのリンクをたぶらかした奴ってのは?」
え? 急に口調が変わったぞ?
「え? それってどういう?」
「とぼけんじゃねーぞ。おめぇ、うちのリンクと契約したらしいじゃねーか! リンク、どうして僕という存在が居ながらこんなやつと契約しちゃったんだい?」
雄也に話す時とリンクに話す時の口調が全く違うパンジー。
「こんなやつじゃないよー。雄也さんはとってもいい人なんだよー。それに水の都を救ってくれたのもここに居る雄也さんなんだからー」
いつもの口調で返すリンク。
「な!? こんなやつが水の都を救っただって? 信じられない!」
そう言うとパンジーは、背負っていた弓矢を雄也へと向ける ――
「な!」突然のパンジーの行動に、驚く雄也!
「おいおい、妖精さん、穏やかじゃねーぜそりゃー」割って入ろうとする和馬。
「ちょっとパンジーどうしたの? いつものパンジーじゃない、やめて!」止めようとするリンク。
「いや、リンク、僕のリンクはこんなやつに騙されるようなリンクじゃない。待ってて、今助けるから」
「違う、騙されてないから。私は雄也さんと契約したくてしたんだから!」
「な!」今度はパンジーが驚いた表情を見せる。
「そんな……じゃあ分かった。そこの雄也とやら、僕とリンクをかけて勝負しろ! 僕に勝ったらリンクとの契約を認めてやる!」
「認めるも何も……既に契約してるんだけど……」
「うるさいうるさい! さぁ、武器を取れ!」
―― なんか大変な事になって来たぞ……。そう思う雄也なのであった。




