第99話 プレゼミ飲み会
プレゼミに参加したのは全部で15人。学生たちは概ね親切だ。大阪独特のユーモアなのか本気なのか分からない持論を唱える者もいる。種田もプレゼミの中で無理に自分の学説を押し付けるようなことはしない。ただ会話が物凄く巧だ。前面賛成はしないが、反対もできないような空気に周囲を持ち込んでいく。
志成もプレゼミの場では極端な発言を自重した。
「ねえ、加ノ上さん。さっき授業で人の寿命を決められる方を知ってるって言ってたよね。それ、ホント?」
「ええ。彼のひいおばあちゃんなんですよ。ね、先代くん」
女子学生の質問をスルーパスされ、僕は焦る。
「え、まあ、一応。というか、まあ霊感があって。その人が病気かどうか分かる、ってことからそんな風に言われてたみたいです」
この程度の話にスケールダウンしておく。本物の仏様だった、なんて言ったら、おおごとだから。僕も慎重になる。
打ち上げは通天閣近くの居酒屋だった。特別ゲストということで、志成は種田の隣に。僕は種田の正面に座る。
「高校生はノンアルコールドリンクね」
僕の隣に座った女子学生が場を仕切る。どうやら ”プレゼミ長” みたいなポジションのようだ。
「私、2年の野崎。一応20歳。よろしくねー」
酔ってもなさそなのにいきなり肩を組んできた。向かいに座る志成が困惑顔になる。安心させるつもりか、野崎さんは志成に握手する。
「いいねー、若い2人は。泊りがけなんて、仲いいよねー。因みに、もうヤッた?」
「いえ・・・部屋も別々です」
僕は真顔で回答する。
「野崎さん、あんまり高校生をからかうなよ」
種田が会話に参加してきた。野崎さんは笑いながら応じる。
「でも先生。先生は加ノ上さんみたいなはっきりした子が好きでしょ? 私は先代君みたいな静かな子が好き」
不快だけど、僕と志成には種田を倒すという目的がある。”ならぬかんにんするのこそ” と2人してぐっとこらえる。
けれども、この打ち上げの雰囲気がどういう風に戦闘の場面へと発展するのか。
やや焦りが出てきた。
「これ、何だか分かる?」
ジップロックの小袋に錠剤が入っている。それを種田が3人の前でひらひらと振る。
「わ、怪しい。先生、何ですかそれ?」
「安楽死の薬」
「え?」
「嘘嘘。アルコールを分解する成分を含んだ薬。市販のやつより余程効く」
「ほんとですかあ?」
「もちろん。急性アル中の患者にも使えるようなやつだから。でも基本はウコンベース」
「飲んでみよ。いいですか?」
「どうぞ」
野崎さんは袋を受け取ると1錠取り出して口に放り込む。そのままコーク・ラムで流し込んだ。
「あ、ほんとだ。水みたい」
「それは君が酒豪なだけだ」
「君らも、ほら?」
僕と志成は種田を見る。
「大丈夫。ウコンベースだし、疲労回復効果もあるから。長旅と白熱した議論で疲れたでしょう」
乗るのが自然な流れのようだ。1錠ずつ口に含み、ウーロン茶でごくっと飲んだ。




