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タイシとシナリ  作者: @naka-motoo
第6章 4人目の敵
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第97話 志成 VS 准教授

 種田は見た目はごく普通の准教授だ。愛想もいい。


「えー、今日はちょっとアンケートを取ってみますね。祖父母がご健在の方、手を挙げて」


 ほとんどが手を挙げる。


「お年寄りには長生きして欲しい方」


 これもほぼ全員。天邪鬼っぽい数人が手を挙げないだけ。


「では、人間は自分で生死を選ぶことができるべきだ、と思う方」


 教室がざわつく。すっ、と、最前列の女子学生が手を挙げる。


「先生。選べるっていうのは、死ぬのを選べる、ってことですか? それともまだ生きるのを選べる、ってことですか?」

「どういう意味かな?」


 種田と女子学生の対話が始まる。


「はい。たとえば、現代の医者は患者に治療方針をすべて説明します。それで費用面も含め、患者や家族の了解を得た上で治療します」

「うん、そうだね」

「医療格差が生じるのは現実です。高額治療を受けて生き延びる選択肢があるっていうのが、”生きる” の選択です」

「じゃあ、死の方は?」

「え・・・と。安楽死や延命治療の拒否なんかです」

「うん、あと、自殺っ、っていうのもあるよね」


 きわどいな。大学ってこんな感じの所なのかな? 種田は続ける。


「いい質問でしたね。つまり、こういうことです。人間の尊厳とは自己の存在を自分で定められるという点にあると考えます。老いたる人は少しでも意識明朗な内に死を選び、社会的に活躍する若者は最新医療をローンを組んで受ける。そういう、”生死” に関わる決断を自ら行えるところにこそ人間の尊厳と自由とがあります。では、生死を選べるべきだと思う方、手を挙げて」


「先生」


 多数が賛成に手を挙げそうな空気をリフレッシュするような澄んだ声が僕の隣から上がった。

 志成がすっ、と立ち上がる。種田は一瞬、いらっとした素振りを見せたが、すぐに笑顔で志成に語り掛ける。


「まだ質問があるかな?」

「先生。先生はどこから生まれてきましたか?」

「母親の股の間からだね」


 教室に笑いが起こる。おそらく、この手の対応に慣れているのだろう。想定問答のように種田は瞬時に回答する。しかもややセクハラめいたジョークとも取れるスマートな答えで学生のウケも取る。

 けれども志成はひるまない。


「ふざけないでください」


 女子高生のクールな一声に大学生たちが、しん、とさせられる。


「ふざけてなどいない。つまり君はこう言いたいんでしょう? 私の前に親が居て、その前に先祖がいると。私は自分の意思で勝手に生まれて来た訳ではないと」


 志成は、こくっ、とうなずく。種田が続ける。


「だが、親にしろ先祖にしろ、そういった人間達が自分の意思で子孫を産み育ててきた訳です。人間の自由意志と言えるでしょう」

「違うんです」

「何が違うの」

「わたしは身近な中で人間の寿命を決められる方を1人だけ知ってるんです。でも、その方は多分人間じゃありません」

「君、宗教の勧誘か何か? 学内でそういう行為は禁止だよ」

「宗教なんかじゃありません。単に事実を言ってるだけです。現に、男と女がSEXしたって、卵子に精子を受精させて孕ませることすら人間じゃ決められないじゃないですか」


 志成もスマートにやり返す。しかも、”少女” の発言の方がよりクールでウケもいい。声にならないさわめきと色めきが教室の空気を包む。


「人工授精って方法もある」

「つまんないです」

「何?」

「もちろん人工授精も1つの方法です。子供に恵まれない人たちの選択は当然尊重されるべきです。でも、様々な制約条件があるからこそ、その方法に辿り着き、生まれた時の感動が素晴らしい訳じゃないですか」

「制約条件?」

「はい。たとえば、今わたしは服を着てます」


 ブルージーンの上の白のワイシャツをぴらっと持ち上げる。


「この服は制約条件です。普段、わたしは服を着てます」


 教室じゅうが志成の一挙手一投足に注目している。


「わたしに恋人ができて、そういう関係になった時。2人きりで向き合って初めて制約条件を取っ払い、裸を見せ合う訳です。きっと感動すると思います」


 女子学生の反応もいい。


「恋人じゃなくても、服の上からわたしの裸を想像するのだって勝手だし自由です。まあ、服の下の実体は大したもんじゃないですけど」


 ”そんなことないよー”、と男子学生の合いの手が入り笑いが起こる。


「服、っていう制約条件があるからこそ、”裸” が新鮮で好奇心をそそられるんです。垂れ流しだとありがたみがありません」


 種田は完全に黙って聞いている。納得した訳ではなく、今は沈黙を選ぶ方が学生の評価を得られると計算したのだろう。


「”生死” は制約条件の最たるものです。この制約条件を手放すことこそ自由の放棄のような気がします」


 拍手する者。隣同士で議論する者。スマホで志成を撮影する者。


 今、志成が場を制している。


「なるほど。君の意見も一理ある。では、このアンケートは一旦保留します。大事な問題だからみんなも来週の授業までに意見をまとめておいてください」


 おお。准教授をやり込めてしまった。

 志成、すごい! 尊敬する!


 シナリオ完全無視だけど。

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