第86話 人、殺したこと、あるんですか?
山田は途中でLサイズのポテトを買って来た。
「おい、これぐらい食えよ。ヤクザじゃない、山田進っていう、いち個人のイモだ」
じゃあ、と、2,3切れつまむ。
「それで、これからする話も多田組の若頭としてじゃない。俺という人間個人の話だ」
そう言って、語り出した。
「拳銃を街ん中で売ってたのは全員下っ端だ。滑稽と思うだろうが俺も一応、”管理職”、だ。谷組への顛末の報告のため、誰が誰に売ってたのかを徹底的に調べた。武田の娘が入手した経路も分かってる」
「誰、ですか」
「サトウって下っ端が2丁売った。2丁とも同じ相手にだ」
ぽいっ、と山田が一握りのポテトを口に放り込んで、もぐもぐしながら答えを言う。
「母親の方だ。社長は無関係だ」
なぜだか僕はほっとする。
「社長は自分の嫁がまさか宗教なんて商売始めると思ってなかったんだろうな。代々加茂神社の総代やってたのに、申し訳ない、って返上したくらいだ。嫁が宗教法人作ってからは別居状態だった」
「そうなんですか」
「ああ。娘はいい子だったらしいが、母親がいけないな。贅沢だ、と断る娘に無理に外車を買い与えたり、アメリカに留学させたりな。アメリカでは銃の教習を受けさせてな」
「え?」
「だから、ニュースで言ってた、”護身用”、ってのは本気なんだよ。教祖様だからズレてんだな、感覚が。”痴漢に襲われたらどうするの”、って言って、銃まで買い与えるんだから」
「もう1丁は?」
「当然、母親が持ってるってことになるな」
「・・・ありがとうございました」
頭を下げる。
「で、どうするんだ?」
「敵なので、戦います」
「殺すのか?」
「・・・殺さずに倒します」
「お前、武道かなんかやってんのか?」
「いえ。一応トレーニングはしてますが」
「ふうん・・・確かに体は締まってるな」
「はい。摂生しているので」
「お前の眼、ちょっとすごいな」
「え?」
「20年ほど前に警察のガサ入れがあって、馬鹿な奴が警官に発砲しちまってな」
「はい」
「その警官、肩と腕に2発も喰らってるのに、特殊警棒だけで向かって来るんだよ。結局発砲した組員は半殺しに打ち据えられたよ」
「・・・」
「その警官に、お前似てるよ」
「・・・僕の先祖は戦争に行って、銃剣でマシンガンと戦ったそうです」
「ああ、それでか。でもな」
「はい」
「胡散臭いけど、武田の母親は本当に霊感があるらしいぞ」
「気を付けます」
彼はタバコを出そうとして、ああ禁煙か、と呟きひっこめた。
「あの・・・最後に質問していいですか」
「何だ?」
「人、殺したことあるんですか?」
山田はじっと僕を見つめる。
「実は、無い」




