第82話 社会人としての忠告
おばさんの言った通りだった。
看板も何も無いけれども、古びた質素なビルの前に、どん、とパトカーが停車し、エアコンのためにエンジンをかけっぱなしで中に警官が2人乗って待機している。パトカーの前後に県警の名前が入ったカラーコーンが置かれている。本当に商店街のど真ん中だ。日常と異常が隣り合わせで同居している現実に寒気がした。
「どうするかな・・・」
敵は武田美咲の関係者だ。けれども、それが父親なのか母親なのか判断しかねていた。両方、ってこともあるのか?
意味も無く組事務所の前を行ったり来たりしていたら、パトカーの助手席から警官が降りてきた。
「ちょっと、あなた」
「はい、僕ですか?」
「何しておられるの?」
「いえ、ちょっと・・・」
「高校生?」
「ええ、まあ・・・」
「学校は?」
「休学中です」
ん、という表情に変わる。けれども、最近は、人権関係の教育がしっかりされているらしく、逆に挙動不審な僕への応対が丁寧になる。
「そうですか。ここは暴力団の事務所前です。只今特別警戒中ですので近づかないでください」
「はい。でも、商店街のお店の人は大変ですね」
「え?」
「ずっとパトカーが停まってたら商売にならないでしょう」
「・・・市民の皆様の安全のためにはやむを得ません。ご理解ください」
「組事務所に立ち退き命令とかできないんですか」
「人権はありますので」
「民間人に銃を売っても?」
「おかしなことをおっしゃいますね」
でも、そういう話を聞きましたよ。僕は実際に銃を買った人に会ったこともあります」
「! 何をおっしゃってるんですか」
「武田建設の社長の娘さんですよ」
警官が声を潜める。
「たとえそれが事実だったとしても、余程しっかりした根拠が無いのに適当なことは言わない方がいい。これは警官としてではなく、いち社会人として君に忠告する」
僕は初めてこの警官に好意を抱いた。
ふと、事務所のガラス戸を開け、ノーネクタイにスーツを着た中年男が1人出て来た。
「失礼」
と言って、警官はその男に歩み寄り対応する。
「外出します」
中年男がそう言うと、警官は、失礼します、と彼の身体の所持品検査を始めた。終わるとそのまま中年男は駅の方に向かって歩き出す。
「ありがとうございました」
警官に挨拶して、僕は反対方向に自転車を漕ぎだす。角ですっと右折、また右折して横道を走る。ゆっくりと商店街に戻るとさっきの中年男に追いついた。
僕は後を付けた。




