第81話 アイスと銃と組事務所
ソーダ味の棒アイスをレジのおばさんに出すと、会計しながら話し掛けて来た。
「暑いわねえ。高校生?」
「ええまあ。テスト期間中でちょっと休憩です」
「あら、そう」
9月に入った平日の昼間にうろついている言い訳のために軽い嘘をつく。
「暑いんで、店の中で食べてっていいですか?」
「ええ、いいわよ」
おばさんが出してくれた丸椅子に腰かける。駄菓子屋的なノリだ。
「向かいの会社って、大きいんですか?」
「武田建設さん? ええ。この辺のカンコウジはほとんど落札してるから、大きい所だね」
「カンコウジ?」
「ああ、官民の官工事ね。公共工事、ってこと。市の体育館とか学校とかね」
「ああ」
「社長が立派な人だからね。地元のお祭りの世話とかもやってくれるし、氏神様のご寄進なんかも相当やっておられるみたいよ」
「へえ、すごいんですね」
「ただ、まさか娘さんがねえ。あんなことになるなんて」
「あんなことって?」
しらばっくれて訊いてみる。
「ほら、この間、女の子がピストル持ってたってニュースあったでしょ。あれ、社長の娘さん」
「え! そうなんですか?」
「そうそう。あの社長の娘さんに限ってまさかとは思ったけど、やっぱり母親がねえ・・・」
「母親? 社長の奥さんですか?」
「そうなのよ。”さとり会” っていう、まあ宗教法人なんて言ってるけど、やってることは占いだからねえ」
「占い師なんですか?」
「まあ、”信者さん” は100人ぐらいいるみたいだけどね。うちのお客さんで占ってもらったって言ってる人がいたわよ」
「何を占ってもらったんですか?」
「東大に受かるにはどの塾へ行けばいいか、ですって」
「へえ・・・受かったんですか?」
「ええ、ほんとに合格したんですって。でね、お礼が100万円よ」
「・・・受かったのはその塾のお蔭じゃないかなあ・・・」
「でもまあ納得して払ってるんだから、他人はどうこう言えないけどね」
「社長の娘さんはどんな人なんですか」
「素直ないい子よ。ほら、家が商売やってるから、近所の人にもきちんと挨拶してね。美人だし、評判よかったわよ。一人娘だから、どんな男と結婚して後を継がせるんだろうってね」
「でも、逮捕されちゃってますもんね」
「そうなのよ。びっくりよね」
「銃なんてどこで手にれたのかなあ」
「あら、知らない?」
「え?」
「多田組って暴力団あるでしょ」
「そんなのあるんですか」
「あら、世間知らずね。まあ高校生だもんね」
「多田組から買ったんですか」
「谷組系の2次団体なんだけどね、谷組が下部組織に抗争用に支給、っていうか、まあ売るんだけど、去年まとめてロシア製の拳銃が入って来たんだって」
「ロシア製・・・」
「ほら、今年の初めに、”トカレフ” で組事務所に撃ち込んだってニュースが何件かあったでしょう? 一応まじめに抗争で使ってる組員もいるんだけどね、貧乏な組員は銃を市民に売って生活してるみたいよ」
「娘さんもそれを買ったと?」
「もっぱらの噂よ」
「多田組の事務所って近いんですか?」
「ええ。中田口商店街の3階建てのビルよ」
「分かるかなあ」
「何? 見に行くの?」
「はい。社会勉強に」
「パトカーが24時間停まってるからすぐ分かるわよ」




