第71話 怖かった!
「いいんですよ、謝っていただかなくて。ユウさんの発言の承認が3人もいますから」
ユウの表情が失望から更に蒼ざめたものに変わっていく。
「でも、この写真の犯人の親ってどんな人でしょうね。もし、女の子だとしたら、母親はどんな教育してきたんでしょうね。これだけ辱めのツボを知ってるってことは、犯人の母親も情けない下衆な人かもしれませんね。下手したら不倫とかしてるかも」
「あなた、私を挑発してるの?」
母親のドス声に間髪入れずに志成がかぶせる。
「え? わたしはさっきから言ってるように、犯人とその母親像を空想で言ってるだけで、それがどうしてあなたを挑発することになるんですか? 訳、分かんないですね」
この一言で決壊した母親が、水の入ったグラスを高く振り上げた。志成が目にも留まらない速度でテーブル越しに身を乗り出し、右拳で母親のこめかみにカウンターを打ち込む。
母親は体が左に流れてソファにべたっ、と座りこみ、床に落ちたグラスがガシャっ、と音を立てて割れた。ラウンジの客が一斉にこちらを向く。
「暴力振るった!」
殴られた親を心配する代わりに、ユウが嬉々として叫ぶと同時に志成が立ち上がり、それよりも大きな声で独演を始める。
「怖かった! その人、わたしにグラスを投げつけようとするんだもん。もう、どうしたらいいいか。無意識に身を守ろうとして身体が反応したよ。先代くん、本当に怖かったよ!」
泣き出さんばかりの勢いで志成は両手で顔を覆い、ソファに崩れ落ちるように座る。僕も一連の言動にただただ圧倒されそうになったけれども、覆った手の隙間から志成がちらっ、と目で合図した。はっと我に返り、僕も独演モードに入り、自分の台詞を吐き始める。
「未成年者の彼女が成人であるあなたの攻撃に身の危険を感じ、とっさに身を守るための行動をとりました。ちゃんと防犯カメラにも映ってるでしょうし、彼女の行為が正当だってことを証明できます。よかった」
そう言って僕は中空の丁度いい位置にある防犯カメラを指差す。
「でも、殴った!」
ユウが金切り声を上げる。能面のような表情を意識してユウに向かって言う。
「見解の相違でしょ」




