第61話 ザンじゃなく、可奈美
結局リーダーの子が自宅に電話した。
母親が車で現場に来て、とにかく謝罪の言葉のレパートリーの限りを尽くして謝った。
けれども、僕に謝られても困ると言うと、今度は、”ザン”と呼ばれていた子に謝った。
「悪気はないと思うんですよ」
という母親の言葉に得体のしれない気持ち悪さを感じる。
リーダーの子は阿武谷ユウ。僕も一応住所・氏名・電話番号をユウの母親に渡す。
ようやく解散した。
僕は心配なので、いじめられていた彼女を家まで送ることにした。
「かえって辛い思いさせたかな?」
「いえ・・・ありがとうございました」
聞けば今日は登校日だったという。明日からしばらくはあの子らと会わなくて済むということだ。
「・・・わたし、井上可奈美っていいます」
「可奈美ちゃんか。響きがかわいいね」
彼女は首を振る。
「”ザン”、って残飯の”ザン”なんです。わたしにはこっちの方が合ってるってことですよね」
「・・・君の本質は、”可奈美”、っていう名前に全部詰まってる。君に一番似合う名前は可奈美ちゃん以外にない」
「ありがとうございます」
「可奈美ちゃんのご両親はこのことを知ってるの?」
「・・・わたしから話したことはありません。・・・でも、知らない筈無いって思うんです」
言いながら、彼女が泣きだした。
「僕から伝えてもいい?」
「はい」
彼女の母親と祖母が在宅だった。母親に全部伝えた。母親は知らない振りをして受け流してきたことを可奈美ちゃんに泣いて詫びた。祖母は正座して手を合わせていた。




