第57話 中学の男友達
お昼前にはプールから上がった。
うだるような暑さの中、塩素の匂いをぷんぷんさせる僕と志成は、自転車が作り出す風の涼しさを頼りに喫茶店を目指していた。
「大志はその店に入ったことあるの?」
「いや、入ったことは無いけど、外観がすごくおしゃれだから、いつか行ってみたいと思ってた」
この高架道路の下をくぐると見えてくるはずだ。日差しを潜り抜けて店に着いた。
前面は無味なアスファルトの駐車スペースだけれども、背面は公園に面しており、木々がざわめいている。建物は山小屋風。その店舗をすっぽり覆うように木陰が涼しさを作り出している。
「いい感じだね!」
志成が無邪気に笑ってくれたので、汗かいて自転車を漕いで来た甲斐があった。
”カラン”、とドアを押して店内を見渡す。座席は7割がた埋まっていたけれども、公園側の窓際2人席がちょうど空いて、ウェイターがテーブルを片付けているところだった。
「ここ、いいですか?」
「はい、よろしいですよ。今、空けますので」
僕と同年代ぐらいのウェイターとのやりとりを志成がじっと見てる。志成の様子が変だ。先にウェイターの方が反応した。
「お客様、間違っていたらすみません。もしかして、加ノ上さんですか?」
「小坂くん・・・?」
「ああ、よく覚えててくれたね。2年ちょっと振りなのに。俺のこと見てすぐわかったんだ?」
「それはこっちのセリフ、というか・・・わたしのことこそよく分かったね?」
「え?いやだって、黒目の大きいところとか雰囲気とか、そりゃ分かるよ」
「だって、あの頃すごい太ってたのに」
「え?よくあることでしょ。激ヤセしたり激太りしたり。あ、すみません」
”小坂くん”、は僕の方に気遣ってか、作業に戻る。手際よくテーブルを拭いてカウンターへ戻って行った。
「中学の?」
「うん、同じクラスだった・・・3年間」
「そっか」
「その・・・小坂くんだけがわたしのこと名前で呼んでくれたんだ。”加ノ上さん”、って。他は全員”リバ”の前のまた別の渾名でだったけど」
「いい人なんだね」
「うん。超然としてるっていうか。みんな小坂くんには一目置いてた。だからわたしのこと名前で呼んでも誰からも嫌がらせ受けたりとかなかったんだと思う」
ますますいいヤツだ。ついつい志成に意地悪な言い方をしてしまう。
「それに、かっこいいよね、彼」
予想外に素直な反応が返ってくる。
「うん。目立つ訳じゃないけれど、優しそうな感じで。実際優しいし」
なんだか複雑で微妙な気分だ。
小坂くんがオーダーを取りに来る。僕から彼に話しかけた。
「おすすめのランチとかあるんですか」
「そうですね。”食事”っていうイメージをあまり持たれないかもしれませんが、ホットケーキがおすすめです」
「ホットケーキ?」
「はい。チーズと生ハム、それとブルーベリージャムを添えてお出しします。最初にチーズと生ハムを乗せて召し上がっていただき、最後はジャムをつけてデザート感覚で」
「じゃあ、ホットケーキにします。ブレンドとセットで。志成は?」
「わたしもホットケーキ。アイスコーヒーで」
「かしこまりました・・・加ノ上さん、その方はもしかして、彼氏さん?」
「え?」
「友達です。同じ高校の」
志成が困ってたので、僕が代わりに答えた。
「そうですか・・・実は、結構心配してたんですよ。加ノ上さんは中学の時、色々と嫌な思いをしてたので、高校で大丈夫かなあって。でもこうしてお友達と楽しそうにしてるのを見て安心しました」
小坂くんはまた仕事に戻っていく。
小坂くんはいいヤツだ。ホントにいい奴だ。
だから、腹が立つ。




