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第55話 そこのカップルさん
本格的に泳ぐ、という発想は正直無い。なので、夏っぽさを味わうという視点を最優先し、流れるプールに身を任せた。
僕は究極までリラックスした平泳ぎの態勢で、志成は浮き輪に体を通して。
最初の3周ほどは2人並んでぷかぷかと廻ってみた。その内に僕はちょっとだけ自分の推進力を使って、すいっ、と志成の前に出る。すると志成も少し足をばたばたさせて追い付こうとした。
何となく面白いので徐々に加速していく内に、どんどんスピードが上がっていった。
志成も意地になって僕に追い付こうとする。10周を超え、はてしなくこのデッドヒートが続くかと思った時、”ピ、ピーッ”、と笛が鳴った。
「そこのカップルさん、無理な追い越しはしないでください。小さなお子さんもいますので」
係員の人の声だった。カップルかどうかはともかく、明らかに僕と志成のことだったので、すみません、と頭を下げ、こそこそとプールサイドに戻った。




