第50話 いい感じだね、キミら
「よう、キミ」
突然割って入った太い声に振り返ると、小柄な男性が立っていた。小柄だけれども、瞼がはれぼたったく、唇に切った後肉が埋まったような傷跡があり、髪は短髪で後ろだけ伸ばしている。はっきり言って、怖い。向こうのテーブルに座ってこっちを見ている男2人も怖い感じのお兄さんたちだ。
「なー、キミって東金さんとやって勝った子だよね?」
あー、東金さんのジムの人か。どうりでボクサーみたいな顔してるんだ。
「勝ったって、あれは」
”マラソン”でだけど。
志成に絡んできた女子3人はぎょっとしてどうすればいいか分からなくなっているようだ。
「その女の子はキミのツレだったよね。確か一緒に暮らしてるんだっけか」
「はい・・・一応」
志成も目をぱちぱちさせてる。
「彼女の方もえらい度胸があるってジムのみんな感心してたよ。ところでキミ達」
その人が女子3人組に顔を向ける。
「”友達”にしちゃ何かざわついてるからちょっと気になってね。一応教えておいてあげるけど、この”彼氏”はね、ボクシングで日本ランキング2位の人に勝ってるから」
「いや、だから・・・」
いいから、とその人は僕に目配せする。
「ついでに言っとくけど、”彼女”の方ってすごい美人じゃん?だからその日本ランカーの人がちょっと口説こうとしたら”彼氏”がキレちゃって。まあ、試合前だったからうちの会長が穏便におさめてくれたんだけどね」
志成も僕も、もはや言われるままにしておいた。
「行こ」
3人はくるっと後ろを向いて振り返らずに歩き出す。
「お、”友達同士”もうちょっと話してけばー?」
その人は追い討ちをかけた後、ふふっと笑い出した。
「いやー、女子高生をからかうのは面白いわー」
「あの・・・ありがとうございました」
志成がぺこっとおじぎをする。
「いやいや。そーだよね。男だったら彼氏がぶんなぐっちゃえばいいけど、女相手だとねー。あーゆー女たちが一番たち悪いよねー」
「ありがとうございました」
「いや、いいよ。キミ達こそせっかくのデートなのに災難だったよね」
「デート、ではないんですけど」
「いーからいーから。2人ともいい感じだよ」
じゃあ、と言ってその人はテーブルに戻って行った。




