第48話 ささやかな幸福
フォルテは世間の学校が夏休みに入る直前の先週オープンしたばかりの複合商業施設だ。志成はこの施設に入っている、”ひざしや”、というスーパーを1回見たかったという。
シネコンやブティックも入っているが、それはついでらしい。
そんな訳で僕と志成は施設が開く9:30から出掛けた。
「今日は暑くなりそうだね」
「うん」
最近は志成の方から会話を切り出すことが多くなった。反対に僕は、”うん”、とか、”そうだね”、とか受け手に回ることが多い。
「歩いて来れるのがいいよね」
「うん、確かに。郊外にはいくつかあったけど、街中には無かったからね、こういうの」
早速2人して1Fにあるスーパーに入る。
オープンしたばかり、ということもあるのだろう。朝から店内は結構なお客さんが入っている。
「買わないでいいと思うと気楽だね」
「まあね」
いわばスーパーのウインドウショッピングみたいなものだ。ひざしやを次回から買い物のローテーションに入れるかどうかの見極めを行っていく。
「あ、志成。玉子は1,000円以上買い上げで45円だよ」
「え?んーと・・・あ、大志、これだめだよ」
「え?」
「ほら」
志成に言われ、山積みになった玉子のパックに目を近づける。
「ね?小さく”オープン特別価格”、って書いてあるでしょ。それに見て。全部Lサイズできちんと統一してあるよ。この手のやつって、M、Sサイズ混合だから40円とか50円とかにできるんであって、これは次回からもう無くなるよ。あったとしても、”はやしの玉子”を100円引きにする程度だよ」
「・・・志成、完全に主婦だね」
「え?うれしーな」
「ん?」
「主婦って褒め言葉だよね?”家庭のプロ”、っていう」
「あ、うん、もちろん」
「ふふっ」
”家庭のプロ”、なんていう独特の言い回しがかわいいな。に、しても周囲から僕らはどういう組み合わせに見えるんだろうか。スーパーをうろうろするような年代には多分見られないだろうけど。
「うん。大体つかめた。大志、わたしの分析、聞いてくれる?」
「うん」
志成が得意げな顔になる。
「えーとね。生鮮食品は産地や生産者や鮮度なんかで違ってくるからね。ここは確かに肉も魚も野菜もいい品ばかり。まあ高いけど値段相応ってところだね。ひき肉はうちみたいな3人”家族”が使いやすいg数のを売ってる。問題は他店と同じ商品についてだよね。”丸日ハム”のロースハム4枚×3パックは、”関西屋”よりも10円高い。”ハマサキ”の6枚切り食パンは5円高い。他も大体同じ。総合すると、生鮮食品は1.5~2ランク上の商品を扱い、その他のものの価格も1割から2割ぐらい他店より上乗せしてテナント料を払ってる、って感じかな」
「す、鋭い・・・で、結論は?」
「うちは常用しません。・・・まあ、買い忘れたものをさっと買いに来る時ぐらいかな」
2人してけらけら笑った。2人が共通の世界で生きてるんだ、って感じだな。なんか、こういうのをささやかな幸福、とか言うんだろうか。
「かすみもスーパー行くの好きだったんだよね」
「あ、かすみちゃんも?そっか・・・」
志成が僕を見上げる。
「かすみちゃんいなくなって今でも寂しい?」
「・・・いや、寂しさはもちろん消えないけど・・・でも、かすみの代わり、って訳じゃないけど今は志成がいるから」
「あー、年下扱いなんだ」
「ふっ、まだまだ志成はかわいいもんだよ」
文字にして並べたら恥ずかしいようなことも最近はお互いに自然に言える。
”家族”なんだな、僕らはやっぱり。




