第44話 また観に来ますから
「ああ、そのお2人はいいんだ。お通しして」
入れるかどうか分からないけれども東金の控室へ行ってみると、会長が招き入れてくれた。東金はちゃんとパイプ椅子に自分で座っていた。足の痙攣はどうやらおさまったようだ。
「東金、大志さんと志成さんが来てくださったぞ」
僕らが会釈すると東金は目を伏せたままわずかに頭を下に動かした。
「勝てたら祝賀パーティーにお誘いしようと思っていたんですが・・・」
会長は冗談を言うようなタイプではない。本当にそのつもりだったのだろう。僕には敗者にかける言葉など見つからなかったが、志成は頑張って東金に語り掛けた。
「あの・・・頑張ってくださいね。また観に来ますから・・・」
東金は返事をしなかった。ただ、僅かに目が潤んだようだった。汗、かもしれないけれども。
「あのな、お前がモチベーション保てるように教えなかったんだがな・・・・チャンピオンも幼稚園の頃から高校卒業するまでいじめられてたらしいぞ」
「知ってましたよ・・・」
「そうか・・・」
「俺、ボクシングやめます」
会長は少し驚いた表情を見せたけれども、しばらく考えた後、口を動かした。
「・・・分かった。これからどうする?トレーナーとしてやるつもりがあるならウチで雇うこともできるぞ」
「いえ、普通に就職探します」
「そうか・・・」
会長はそのまま僕らの方に向き直り、深々と頭を下げた。僕らもお辞儀をして、失礼します、と部屋を出た。




