第42話 挑戦者 VS チャンピオン
「あ、東金さん、出て来るよ」
東金の試合は今日のメイン・イベントだ。
せっかくだから、と客席がまばらな時間から他の試合もずっと観てた。
ボクシングの試合を生で観るのは2人とも初めてだけれども、スポーツの域を超えている競技だと改めて思った。ランキングが低い選手の試合であろうとも、殴り合う白熱と、生死すら懸かるという厳粛な静寂とが同居している。
ただし、タイトルマッチは、”華やかさ”、も加わった。
「ひ・が・し・が・ねーっ!!」
応援団が怒号を放つ。
入場テーマ曲が流れ、ガウンに身を包んだ東金がシャドーをしながら花道を歩いて来る。
「あ、この曲って・・・」
「うん、EKの、”ファイティング・スピリット・マン”、だね」
「え!?志成、知ってるの!?」
「うん・・・おかしい?」
「いや、そんなことないけど、意外だな、って思って」
僕も知ってる。世間からはズレてるけれども、”戦えよ!”、っていうロックバンドEKのデビュー曲。はっきり言って、現実が充実した人間は余り聴かないバンドだ。
女の子の志成が聴いているのはちょっと驚いたけれども、東金なら納得だ。初めて彼の人生に共感できたような気がする。
しかし、そんな東金のテーマ曲を打ち消すぐらい会場が盛り上がる。
チャンピオンの入場だ。
「あ、これもいい曲だ」
「うん、Acid VoiceのFree Falling Star、だね」
「ええっ!?志成、なんでこれも知ってるの!?」
「え?え?・・・大志だって知ってるじゃない。別にわたしが知っててもおかしくないでしょ?」
「いや、そう言えばそうかもしれないけど・・・」
Acid VoiceもEKに劣らず熱いバンドだ。しかも、よりクールな哲学性も持つ。
「なんか、僕、志成のことやっぱり余り知らないんだな・・・」
「そんな、大げさだよ。音楽の趣味が同じで良かったじゃない」
そうこう言っている内にチャンピオンがゆっくりと歩いて来た。
「大道ーっ!!」
「大道さーん!!」
「今日もKO頼むぞーっ!」
男性ファンの野太い声だけでなく、女性ファンの数も多い。
目を凝らすと、チャンピオンは本当に端正な顔をしている。
甘いマスク、なんてよく言うけれども、このチャンピオンにこそぴったりな言葉だ。
ただ、僕は瞬時に感じた。
「この人、強いよ」
「うん、わたしもそう思う」
志成も僕も切羽詰まった戦いを2人分こなしている。だから、本能でチャンピオンの強さを感じ取った。同時に、僕はこうもつぶやいた。
「東金が嫌いそうなタイプだな」




