第33話 事前準備
まずは僕の強化トレーニングをすることになった。
「大志と東金の戦いが肉弾戦ということまではお告げがあった。だが、それ以上のことは分からん」
ばあちゃんの言葉に僕はビビる。
「肉弾戦て・・・ボクサーにけんかで勝てる訳ないじゃない。何か武器を使ってもいいってこと?」
「武器を持ったところで大志はそれで相手を打ち据えることはできんじゃろう。東金を大けがさせるほどの攻撃が大志の優しい性格でできるか?」
「分かんないけど無理っぽい・・・でも、だとしたらそもそも戦いを始めることが無理な話だったんじゃないかな・・・」
ばあちゃんが僕に近寄って来る。何をするのかと思ったら、いきなり僕の背中をさすり始めた。
「大志。神仏がお前を見込んでこの戦いが始まったんじゃ。人間だから迷いが生じるのは当然じゃが、決して疑いをかけてはならん。何らかの方法で必ず成し遂げられる」
ばあちゃんに背中をさすられると不思議と心が落ち着いた。ひいばあちゃんが、”生き仏だ”、というわさを聞きつけ、藁にも縋る思いで相談に来た人に、「そうかそうか」と、ただ背中をさするだけで死人が生き返るような表情になって帰って行ったという。
「どんな戦闘になるか分からんが、自分も相手も傷つけんようにするには、まず己を鍛えるんじゃ」
僕のできることとして、ランニングの距離を極端に増やした。ピッチも上げることにした。
志成も僕と一緒に親水公園で自分のメニューをこなすが、僕の鬼気迫るトレーニングの姿にかなり驚いていた。
「大志は中学の時、何かスポーツやってたの?」
「一応中学では陸上部だったよ」
「え?そうなんだ!?」
「1500mでは市の中学記録も持ってたけどね」
「すごい!どうして高校でやらなかったの?」
「ああ。かすみたちが死んじゃって、家のことやらなきゃいけなかったからね。料理そのものはばあちゃんがやってくれてたけど、買い出しや掃除洗濯は僕の担当だから。まあ、友達とのつながりがないと可哀想だっていうのと、クラスで推薦されたから学祭の実行委員だけはやらせてもらったけどね」
「そうだったんだ」
「でも、志成に教えてもらった体幹トレーニング、すごいよ。何ていうか、スイッチが入るっていうか、体のギアが上手く噛み合う感じになって動きがすごいスムーズ。ブランクあったけど、多分中学の時より早く走れてる」
「ほんと?」
ふふっ、と志成は心から喜んでいる顔になる。
「ああ、志成と中学の時に会ってたらなあ。そしたらトレーニング法教えてもらって県のチャンピオンも目指せたのに」
「そうだね。わたしももっと前に大志と会えてたら・・・」
そこまで言って志成は突然はにかむ。浮ついた気持ちになっちゃいけないって分かってるけれども、でもやっぱりかわいい。




