第32話 天罰こわい
ばあちゃんから叱り飛ばされた。
「何でもっと早く報告せんかったんだ」
「はい?」
「東金が2人目の敵だ」
「え!?」
「ほんとですか?」
僕も志成も、予想外だった。
ひょっとしたら、とすら思わなかった。
「それを、大志はかっこつけおって。かわいい女の子からの相談だからと高校生みたいな芝居をしおってからに」
いや、まあ、休学中とはいえ高校生なので・・・
「志成ちゃんも志成ちゃんじゃ。大志はまだまだ人間の機微には疎い。特に色恋の話は人間の素の部分が出るから、思いのほか恐ろしいんだ」
「ごめんなさい・・・」
「いや、いい。私も2人が何やらこそこそしとるのには気付いとったから。もっと厳しく問いただすべきだった。大志、一言言っておくぞ」
「はい」
「志成ちゃんがこの家に暮らしているのは、あくまでも大願を果たすためだ。間違っても変な気は起こすなよ」
「別に・・・そんなつもりは・・・」
「口答えするな!」
「は、はい!」
「いいか。浮ついた心でいたら天罰が下るぞ」
「え?」
「私の口から出る言葉はおどしやものの例えでないということは分かるだろう。本当に罰が当たるんじゃ。分かったな!?」
「はい!」
確かに、そうだ。
同級生と一緒に暮らす、っていう普通じゃない状況で、志成を女の子として意識してしまっていたのは間違いない。反省しよう。
「それより東金だ。手強いぞ」
「確かに。ボクサーだもんね」
僕は志成のお父さんみたいに腕力で抑え込める相手ではないだろうというつもりで言った。
「格闘家として強いというだけじゃないぞ。東金がボクサーになり、今やチャンピオン一歩手前まで来ておる。その執念が怖いんじゃ。志成ちゃん、東金にいじめの話をしたと言ったね」
「はい」
「東金は志成ちゃんに強烈なシンパシーを抱いとるんじゃ」
またばあちゃんの口から、”シンパシー”、なんていう英単語が飛び出し、驚く。
「そう言えば、僕も彼の背中辺りから10人ぐらいの小学生に乗っかられて押しつぶされてる子供の残像を感じたな」
「そうか、大志にも見えたか。東金はいじめられたことをバネにしてここまで努力してきたんじゃ。ボクサーとしては、ある意味天晴な男じゃ」
「どうしてそんな人が敵なんですか?」
志成も東金にシンパシーを多少なりとも感じているようだ。
「志成ちゃん。”ならぬ堪忍するのこそ”、誠のかんにんだ。これは私のお姑様が教えてくれたことだ。同じような逆境にあっても志成ちゃんは清々しい風のように、ざっと濁る間のない滝のように、卑怯な輩共にこだわっておらん。だが、東金は20歳過ぎた今でも恨みの塊じゃ。大志、武士の本分は何だ!?」
おおっ、突然だ。けれども僕は今はそれが分かる。
「神仏に向かう姿勢です」
「そうだ。ボクシングはスポーツでありながらスポーツ以上のものだ。ルールはあるが、命をやりとりする事さえあるんじゃ。ボクサーは正しく武士の心がないと駄目なんじゃ」
僕も志成も頷く。
「はっきり言って東金は身体・技術の鍛錬度合いは世界チャンピオンを獲れるほどの器だ。今後ボクサーを目指す少年・少女の目標となっていく選手だ」
そうか。女子ボクシングもあるから少女もか。
「だが、今のままでは、”恨み”、をエネルギーとする方法しか奴は教えられん。いじめられ、いたぶられていた東金が、皮肉なことに、”いじめられていない”、人間すべてを敵視し、いたぶる側にまわるんじゃ。今のままでは、”超”、危険人物なんじゃ」
「よく分かった。志成、どう?」
「うん。多分、東金さんを怖いって感じたのはそれが理由だったんだな、って分かった」
「よし、じゃあ、作戦会議じゃ」
「あの、ばあちゃん」
「何じゃ」
「無理して、”シンパシー”、とか、”超”、とか言わなくていいからね」
「何じゃ、高校生に合わせてやっとるのに」




