第28話 そのお客、何者?
「大志、あのね」
「うん?」
「お客さんのことをどうこう言う訳じゃないんだけど・・・」
ああ、アランの話なんだ。
「何?どうしたの?」
志成は遠慮がちに言葉を続ける。
「その、ちょっとだけ怖いかなー、って感じのお客さんが最近来るんだ」
「へえ・・・どんな人?」
「多分20代だと思うんだけど、男の人。AM7:30の開店と同時にお店に来てね、モーニングを頼むの」
「うん」
「うちは厚切りトースト1枚とゆで玉子に飲み物なんだけど、玉子は要らないって言うのね。それで、トーストも半切れでいいって言うの」
「へえ・・・なんか変わってるね」
「それはまあ、小食な人なのかな、って思うんだけど、ちょっと困ったのはね。わたしに色々と訊いて来るんだよね。名前は?とか、どこに住んでるの?とか」
「え、そうなの?」
「うん」
別に志成は僕にとっての何者でもないけれども、やっぱりちょっと心がざわつく。
「それで?」
「わたしは別にその人だからって訳じゃないけど、自分のことあれこれと言うのはちょっと嫌だから、まあ、へらっとしてあまり答えないようにしてたのね。そしたらマスターにも色々訊いたらしくて。わたしが居ない時につい、”高校生ですよ”、って答えちゃったらしいのね」
「?まあ、それぐらいだったらいいんじゃない?」
僕が軽い気持ちで反応すると、志成は目をぱちぱちさせた。
「あ・・・そっか」
「そう、でしょ? その人、なんで高校生が朝っぱらから喫茶店でバイトしてるんだ、って理詰めで突っ込んでくるから、つい、いじめに遭ってたから休学したんです、って答えたの。その方がまあ分かりやすいだろうって思って」
「まあ、しょうがないよね」
「でも、”いじめ”、っていう言葉を出した途端にその人の態度が急に怖い感じになって。いじめなんて最低の人間がすることだとか、そんなヤツは殺されたって仕方ないとか言って・・・もしかしたらわたしに同情してくれてるってことなのかもしれないんだけど、やっぱり怖くて」
「何してる人なのかな?」
「お店に来る時の服装はね、ジョギングでもしてるような恰好なんだよね。ランニング用のちゃんとしたシューズ履いて、ウエアも上下アンダーアーマーで」
「スポーツ選手、とか?」
「分からない。9時ぐらいには、”仕事に行かなきゃ”、って帰るから」
「ああ、そうなんだ」
「でもね、この前その人が、今日は仕事休みだって言ってね」
「うん」
「バイト上がる時間は?ってわたしに訊くの。それで、お昼過ぎまでずっとお店にいたんだ」
「うそ!?」
「もちろん、その間、コーヒーとかも追加注文してくれるから、帰ってくださいなんて言えないし。その人がトイレに入った隙にマスターが、時間より早いけどもう上がりなさい、って帰してくれたんだ」
「うーん」
「次にその人が来たらどうしようかって思って」
僕はしばらく考えた。そして決めた。
「僕が一度アランに行くよ」
「来てくれる?」
「うん」
志成もこの答えを待っていたようだ。
「でも、コンビニのバイトは?」
「1日だけシフトを変えてもらうよ。その人が来そうな日って分かる?」
「水曜日は2週続けて来てたと思う」
「分かった。じゃあ、今度の水曜日に行くよ」
「うん」
志成の顔に安心した笑みが浮かぶ。
「ありがと、大志」
女の子から頼られるって、やっぱり悪い気はしない。




