第17話 Side by 済度
「そうか、そうか」
加ノ上親子と会い、今日の報告を僕から聞いたばあちゃんは終始にこにこしていた。特にばあちゃんはシズルさんを褒めた。
「シズルさんはよくまあ夫婦の情に流されず、きっぱりしたことをしたもんだねえ」
「いえ。結局これまで、妻としても母としても間違った道を歩んできたことにはっきり気付いたんです。正すなら今しかない、と思いました。先代さんのお蔭です」
シズルさんは僕に頭を下げる。
「いやいや。うちの孫は何もしとらん。ただ、神仏のご意向であんたの家に行っただけじゃ。結局雅人さんを済度したのはシズルさんと志成ちゃんだ」
「済度?僕には打ちのめし、”倒した”、っていう感覚しかないけどなあ・・・」
「大志、まだまだだな。こうして体ごとぶつかり合わんと物事が始まらんことも神仏の世界には多いんじゃ。シズルさんと志成ちゃんの突きつけた厳然たる事実によってな。まあ、お前の体当たりもそれなりに効果はあったぞ」
はあ、そういうことなのかな・・・
「それで、シズルさん。親であるあんたにはきちんと確認し、了解を取らんといかん。私の気違いみたいなお告げの話をあんたは理解したんだな?」
「はい」
「それで、志成ちゃんが休学することも、大志と2人で戦うことも許してくれるんだな?」
「はい。どうぞ志成を使ってやってください」
「わかった。本当にありがとう」
ばあちゃんはきちんと手をつき、頭を仏間の畳にこすりつけてお礼を言う。シズルさんも慌てて手をつく。加ノ上さんも僕も、4人して正式な礼をした。
「だが、シズルさん」
ようやく面を上げてばあちゃんが質問する。
「普通の人間が聞いたら気味悪がるか、気違い扱いしかしないようなこの婆の話をあんたはまともに取り合い、”うん”、と言ってくれた。実はあんた自身も気違いじゃないかと心配になってるぐらいだ。本当にどうして受け入れてくれたんじゃ?この婆が知らん理由が他にもあるんでないか?」
シズルさんが姿勢を正す。
「さすが実の仏の姑に仕えたお方です。しよさんのおっしゃる通りです」
シズルさんが、”しよ”、と、ばあちゃんの名を呼ばわって厳かな語り口になる。
「私の実家は香川と愛媛の県境にある神社です。平家のゆかりもある山あいの瀬戸内海を見渡せる場所にあります。神社は兄が後を継ぎ、私は縁あって加ノ上家の次男である雅人さんのもとに嫁ぎました」
一同、清聴する。
「実家の祖母は私を本当に可愛がってくれました。将来母親となって、ほがらかで心暖かな子供を育てられるようにと、本当の意味での女子教育をしてくれたと思います。神社ではありますが、仏様の話もたくさんしてくださいました。神というも仏というも人間の長久を守り給う、と。私は神仏の世界を空想や心の持ちようなどとは思っていません。神仏の世界こそが本当の現実の世界だということを祖母から教わりました。ですから、しよさんのおっしゃることは事実です」
そこまで自信に満ちた言葉で語った。
「ただ、私は母としてあまりにも愚かでした」
「いや、そんなことはない。志成ちゃんが、こんな凛々しい女子に
成長したことが答えだ。志成ちゃん、あんたはどうして、”いわれもない”、いじめに耐えられるんじゃ?」
少し考えて、加ノ上さんは答える。
「耐えてなんかいません。薬が切れたらリバウンドするっていうのは事実ですから。本当のことを言われて腹を立てる程あつかましくないってだけです」
「ほう」
「でも、神仏がおっしゃる、”事実”、そのものを捻じ曲げようとする人がいるのなら。わたしは戦います」
「志成ちゃん、天晴じゃ!」




