終章 ふたりの、これから
あれから1か月経った。
いつの間にか護国神社の老桜も八分咲きになっている。
実際はあの日、僕らはすぐには帰れなかった。
そもそも僕は救急車で病院送りになった。ゴーグルが砕けた時の傷は、実は眼尻から頬の辺りをほとんど貫通するように弾が通過し、肉がえぐり取られていたのだ。局部麻酔で手術を受けたが、傷跡は残るそうだ。加えて、スタンガンにやられて左足がしばらく動かせなかった。これも身体に影響がないか、精密検査を受けた。やがて回復するということだが、未だに僕は足を引き摺っている。
近田忠も病院送りになった。というか、僕と志成とで病院送りにした訳だけれども。
実は、近田は気絶したのではなく、軽い心筋梗塞を起こしていた。アップ系の薬物を常習していたらしく、血管に不純物がこびりついており、志成がサブマシンガンを突きつけたことが文字通り引き金となって、梗塞を起こしたらしい。1週間ICUに入り、とりあえず命は取り留めた。当然のことながら回復を待って、殺人未遂・銃刀法違反等の容疑で警察の取り調べが始まる。役員の誰かが司法取引に応じたのか、他にも数件の殺人・傷害容疑が明らかになり、そちらの調査も始まる。僕たちに強盗を差し向けたことも容疑に含まれている。
Natural Age の役員たちも、一部は逮捕され、残りは解任された。驚いたことに、会社は残るという。ただし、MBOで。社員有志が自社株を買い取り、社名も、New Hopeに変更して。残された社員たちがどんな経営をするのか分からないけれども、株は暴落している。
志成の懐刀は、警察が到着する前に向井さんと寺田さんがピックアップしてくれた。その2人は、今回の出来事をゲーム化、更にノベライズする企画を進行中だ。双輪市やコスプレサミットはあまりにもそのセンセーショナルな事件のお蔭で、全国に名が知れ渡った。監視カメラの粗い映像ではあるが、僕がサブマシンガンで頬肉をえぐられるシーンから、巫女姿の志成が引き金を引くシーンまですべてネットに流れており、物凄い数のツイートや書き込みがあった。けれども、だから何、というのが本当のところだ。
そんなツイートなんかよりも、晴れて4月から大学生となる樹と田中さんの連名メールの方が遥かに嬉しかった。、
”大志、加ノ上さん、お疲れさん。今度は受験、頑張れよ。待ってるぞ”
”大志くん、加ノ上さん。本当に大変だったね。また、会いたい。わたしも待ってるよ”
支柱に大枝を支えられた老桜の花びらをくぐり、神前にお礼参りする僕ら3人の、これが現実だ。
「志成ちゃんは大した女子じゃ。天晴じゃ」
「ありがとうございます。おばあちゃんに褒められるのが、一番うれしい」
「大志。そなたもよくやった。おめでとう」
「ありがとう」
僕は照れる。
「お姑様も大徹さんも満足しておられよう。日本が救われた、と」
ばあちゃんはそう言って桜を見上げる。
「おばあちゃん、わたし、ちょっとだけ不安です」
「ん? 学校がかい?」
あと3日で始業式。僕らは復学する。
ばあちゃんも僕も、志成を見つめる。志成は、ううん、と首を振る。
「一年、経ちました。”惚れた腫れた”は、まだ駄目ですか?」
ばあちゃんは志成を見、それから僕を睨む。
「度が過ぎなけりゃいいじゃろ」
「よかった」
清々しい笑顔の志成から視線を逸らすように、僕は花びらを透かして青空を見上げた。
おしまい




