タイシとシナリ
「先代さん? 誰のことですか」
「市長、とぼけなくてもいいですよ。実は私、これ持って来てるんですよね」
近田はそう言って無造作に黒のビジネスバッグを開け、堂々とマシンガンを取り出した。
「それは・・・」
「すごく軽いんですよ、これ。今年出たばかりのモデルです。マガジン、長いでしょう。100発入ってるんですよ」
「・・・そうですか」
「1秒間で20連射。口径がすごく小さいんで威力はないですけど、100発全部顔に当たったらいくらなんでも死ぬでしょう」
やや不自然さはあるが、会見席の周辺にいるギャラリーも特に驚いてはいない。当然そのマシンガンは、イベントに因んだエアガンだろうと思っている。市長もそう思いたかった。
近田は、にっ、と笑って付け加える。
「ホンモノならね」
その時、ジングルが鳴り響いた。
「はーい、ゲーム終了でーす。生き残った皆さん、1階に集合してくださーい」
司会者が号令をかける。出ていくなら今しかないタイミングだ。近田がマシンガンを持っているのを確認し、僕は予備動作なく会見席のある特設ステージ側に向かい、無造作に歩き始めた。近田が本当に撃つのか撃たないのかは分からないけれども、ギャラリーや市長への被害を最小限に抑えるためには僕に注意を向けさせるしかない。ステージ手前まで来た所で、近田は僕に気付いた。初対面のはずなのに、分かったらしい。椅子に座ったまま僕に銃口を向ける。ギャラリーは少しだけざわつくけれども、まだ演出の一部と思っているようだ。
近田が引き金に指をかけた。僕はゆっくり歩きのまま姿勢を低くし、激しく頭をダッキングさせる。
チキチキチキ!
軽くて高い機械音が響いた。
到底実弾が発砲されたとは思えない安っぽい音。けれども、同時に吹き抜けの上にあるLED照明が、ビシ・ビシと砕け散る。
「きゃあーっ!」
ようやくギャラリーが悲鳴や怒号を上げ、ガタガタと会場後方へ逃げ始めた。近田は完全に照準を僕に定めていたが、市長が後ろから飛びかかったので中空へと発砲されたのだ。近田は市長の太腿当たりを蹴飛ばした。市長に向けてそのまま発砲する。
「シナリ!」
「せえーっ!」
背後から滑り込むようにして志成は市長を近田の前から引っ倒した。わずかのタイミングで市長は被弾を免れる。
チキチキ、と音を立てる弾は、BOSEのスピーカーのウーファーに、ぷすぷすと突き刺さった。
ここだ! と考え、僕は低い姿勢のまま近田に向かってダッシュした。
サーベルを右手に握り込む。近田は瞬時に反転し、真正面の僕に向けて連射する。
”大徹さん!”
ガットリング砲と比べればこんなもの、おもちゃだ、と自分自身に言い聞かせ、更にダッシュする。
チキチキチキチキ!
ビシッ、とゴーグルの左レンズが砕けた。
眼尻に鋭い痛みが走るが、弾そのものが当たったのか、レンズの破片で切ったのか、どちらでも別によかった。
ステージに跳び昇る瞬間、僕は近田の眼を睨みつける。狂気に満ちた目だけれども、怖くもなんともない。
僕は掛け軸のままの、大徹さんの涼しい目でもって近田の眼を射抜く。
”あ、逸らした!”
近田が思わず視線を外した。僕の身体は練習通りに動いた。数cmの間合いを見切り、左へわずかにステップしてステージに上がった。弾は紙一重で僕の身体の右側を通過する。僕はジャンプしたそのままの勢いでサーブルを両手でぐっと握り、近田の股間を突いた。
「ぎえっ!」
人間の声とも動物の声とも区別がつかない叫びを発し、近田は膝から崩れ落ちる。
「あ・あ・あ・あ!」
そのままもがき始める。その状態になってもマシンガンを手に持ったままなので、武田さとりにしたように、サーベルで右手首を何の手加減もなく、打った。
「あーっ!」
ようやくマシンガンを床に落とした。すぐに志成が拾い、近田から飛び退くように離れる。
「おい、誰か110番したのか!?」
「なんなんだ、これ・・・」
会場の誰もが状況を掴めないまま混乱している。コスプレ下女の子たちの泣き声があちこちから聞こえる。
「市長、大丈夫ですか?」
僕はショックで呆然としている市長に歩み寄る。
「タイシ!」
志成の叫びに反応した。
思わず半歩避けたが間に合わなかった。左足首から太腿まで激痛が走り、僕はすっ転んだ。
近田の右手にはスタンガンが握られていた。
「近田あっ!!」
志成が近田の背中に馬乗りになり、マシンガンの銃口を心臓の裏側辺りに、ギリ、と押し付けた。
「お前、シナリ、っていうのか。こんな弱い銃じゃ人は殺ぜんぞ」
「なら、残り全部ここに撃ち込んであげる」
「やめろ! シナリ!!」
「・・・おい、お前、ホントにホンキなのか」
「あなたはタイシをホンキで殺すつもりだったでしょ。なら、わたしはあなたをホンキで殺す」
「・・・やめてくれ」
「もう、遅い」
くっ、と志成は引き金を引いた。その、カチッ、という音と同時に、近田は気絶した。
「志成・・・」
「100連発なら5秒でしょ。とっくに過ぎてたから、もう弾はないって分かってた」
「でも、万一・・・」
「仮に残ってたとしても撃ってたかもしれない。そうしないと、大志が殺されるかもしれないから」
「志成・・・お疲れ様」
「大志。わたし、疲れたよ」
「うん」
「ほんとに疲れたよ。早く帰りたい・・・」
「うん、帰ろう・・・」




