これは、本物だから
背後は外で志成がカバーしてくれている。僕は左右上下に注意しながら慎重に中に入った。オレンジの補助照明だけが点され、薄暗さのせいd実際よりも狭く感じる。目を凝らしてみると、不自然に高く積み上げられた長テーブルや絡み合う音響機器のケーブルなど、意図的に作られた”障害物”がさっき向井さんに貰った図面の通りに配置されている。ということは、敵が潜んでいる場所も自ずと推測できる。演壇の前に、多分博士キャラのコスプレだろう、白衣を着て白髪のウィッグをつけた神経質そうな男が立っていた。僕は残像で、コスプレではなく、この男の素性をあらかた把握した。
「こっちへ来い」
男の言葉と反対に、僕は入り口近くの壁にぴったりと背をつける。
「そのまま話せ」
僕に促されると男は聞き取れないぐらいのもごもごした声で話し始めた。
「私たちは依頼人から3つの選択肢をお前に確認するように指示を受けている」
「選択肢?」
「①和解。当然妥当な額の和解金は用意する。②社会的抹殺。ネットや風評を使ってお前たちを生活できないようにする。③事故死」
「嘘つけ」
「何だと?」
「③まで行かないと思ってるからこの仕事引き受けたんだろ」
「嘘じゃない。我々はこのような仕事をいくつもやってきた」
「ゲームの中でだろ?」
僕は攻撃に転じる。
「あんたら Natural Age の人間だな。それも、軍事・格闘系ゲーム開発担当の幹部だ」
「何言ってる」
「あんた、MIT出てるだろ。それで、創業メンバーの1人だな」
「グローバル企業の幹部がこんなリスク冒す訳ないだろう」
僕は、ふっ、嘲笑してそれに答える。
「逆だよ。きちんと雇用契約結んだまっとうな一般社員が、報酬もないこんなクソみたいなことする訳ないだろう。ここに隠れてる奴ら、全員役員だろ」
ガン! と入り口の扉が開いて、志成が袴の裾を荒っぽく引き摺り、ずかずかと入って来た。無言で裾を乱し、いきなり積み重なった長テーブルを壁側に蹴り飛ばした。ガラガラと一気に崩れる音と同時に、
「あっ、ああっ!」
という叫び声がした。そのまま志成が2つ3つ長テーブルをどけると、脛を押さえてうずくまり、悶絶している男がいた。ドクロのマスクにマントをつけたコスプレなので、冗談のようだが、男は向う脛の痛みに耐えかねている。
「何するんだ。死んじまうだろうが!」
博士コスプレの男の間抜けな発言に、志成は全くの無表情で答える。
「・・・あなたは汚物を頭からかけられたこと、ありますか?」
「はあ?」
「学校の屋上に連れて行かれて、”早く死ねよ”、って言われたことは?」
「そんなもん、ないよ」
「甘っちょろい。虫唾が走る」
僕はサーベルを抜いて博士に近付く。
「隠れてる奴、全員出て来させろ」
「そんなもん、本物じゃないだろ」
「竹光だよ。けど、竹光で殴られた事、あんたはあるのか?」
志成が証明のスイッチを探し出し、つけた。まばゆいばかりの世界に一変する。志成も胸から懐刀を取り出した。
「これは、本物だから」




