今を生きる武士たらん
2月が終わった。
イベント開始の3月1日になると、ばあちゃんは2日間、疲労を抜けと初めてバイトも休暇を貰った。純粋に見物客として僕と志成は市民プラザのAnti Bullyingのブースに行った。
「向井さん、寺田さん、お疲れ様です」
2人は業界人ぽく、ややカジュアルなスーツにスタッフフォルダをぶら下げて、テーブルに座っていた。
「よう、大志くん、志成ちゃん。あれ? コスプレは?」
「あの・・恥ずかしいのでサバゲー本番の時だけ着ます」
「えー。早く見たいなー。志成ちゃん、誰のコスプレするの?」
「内緒です」
会場はもちろん、まちなかもコスプレで闊歩する人たちで何か楽しい。雪もほぼ消えてそれ程寒くないので、思いっきり肌を露出したコスプレの女の子もかなりいる。僕は志成に気を遣って、極力見ないようにしてるけど。
こんな感じで2日間、アニメや映画の世界に迷い込んだような僕たちの双輪市を志成と2人でゆっくりと歩いて回った。
夏休みに行った映画館では、イベントとコラボしたミニ映画祭も開催されており、何本か2人で観た。身も心も解きほぐされていくのを僕たち自身感じていた。
そして、3月3日の朝が来た。
日曜日。人出も今日が最高だろう。
「行くぞいね」
ばあちゃん、志成、僕、は家を出た。向かうのは護国神社。
近所の目を憚りながら、大通りに出て真っ直ぐ正面に見える鳥居に向かう。
「志成、みんな見てるよ」
「言わないで。恥ずかしい・・・」
3人とも本番用の、”正装”だ。
ばあちゃんは着物に帯を締め、しゃんとして歩く。
志成は巫女さんの白装束に赤い袴。髪を後ろできちんと束ねている。
「志成、かっこいいよ。それ、何のコスプレ?」
「・・・巫女装束はおばあちゃんのご指定。中学の時にやってた "noisy human"ってアニメ覚えてる?」
「ああ・・・宇宙人の女の子が押しかけ女房になるってやつね」
「あれに出て来る高校の保険医兼巫女さんのキャラという設定にしとこうかな、と」
「動きにくくない?」
「ううん、大丈夫。和服って意外と機能的。大志は大徹さんのイメージだよね」
僕は大徹さんの掛け軸とほぼ同じ、戊辰戦争に従軍した藩の軍服。洋式軍隊のいでたちだ。いわば、最後の武士の姿と言えるだろう。
「設定はね、"last stand"っていう今やってるアニメの主人公。暴走した警察組織と戦う政府軍の将校」
「おー、ぴったりだね」
3人して神前で二礼二拍手した。”必勝”の2文字を大徹さんに誓った。
境内を出ようとすると、スマホを持った人たちに取り囲まれる。
「おー、ミコさんに、ゲンダ。写真撮らせてください」
ゲンダ、というのが、last standの主人公の名前。外国人コスプレイヤーにとって、神社は外せないスポットなのだ。彼らもなにがしかのコスプレをしている。一緒に笑顔で撮らせてあげた。ただ、僕らが純粋なコスプレイヤーでないことは誰も気づいていない。志成は本物の懐刀を胸に忍ばせている。僕が腰にくくったサーベルも、木刀とはいえ、殺傷能力のある本物の武器だ。
大志と志成は、今を生きる武士たらんと祈願した。




