「必勝祈願!」 「それだ!」
大晦日。除夜の鐘が鳴る頃、思わぬ来客があった。
「よ、大志。大晦日おめでとう」
「樹。それにみんな」
樹と学祭実行委員のメンバーが数人。
「あ、田中さん・・・」
「こんばんは、大志くん」
田中さんもいたので正直驚いた。
「田中さん、その・・・大丈夫?」
「うん。学校にもなんとか通い始めたから。心配かけてごめんね」
「いや、僕の方こそ・・・田中さんにはほんとに辛い思いさせて。ご両親にも」
ううん、と田中さんは笑顔で首を振る。
「大志、初詣行こうぜ。加ノ上さんは?」
「ああ、まだおせち作ってるよ。間に合わないって焦ってたな。志成ー!」
はーい、という声がし、ととと、とスリッパで走って来る音がした。
「あ」
「加ノ上さん、こんばんは」
「こんばんは・・・あ、田中さん」
志成が田中さんに会釈すると、田中さんも軽く頷く。
「加ノ上さん。あの、こういう言い方が合ってるかどうか分からないけど・・・広田さんのこと、ありがとう」
「・・・わたしは何もしてないよ。それより、受験勉強はどう?」
「うん。なんとかかんとか」
「頑張ってね」
「志成、みんなで初詣行こうって話になったんだけど、おせちは?」
「あと黒豆だけ。っていうか、黒豆が一番大物だった」
「ばあちゃんは? 一応おせちの本家本元だぞ」
「都合のいいこと言いおって」
ばあちゃんが、ひょっ、と玄関に顔を出す。みんな一斉にこんばんは、と挨拶する。
「志成ちゃん、火加減も水の量もばっちりじゃ。サビ釘も入れてツヤもちゃんと出てきとる。後は火の番をするだけじゃから私が見とる。行っておいで」
「ありがとうございます。お願いします」
そう言って僕たちは氏神様へと歩き出した。雪はそれほどでもなかったので結構な人出だ。
「みんなは合格祈願だね。僕らは・・・」
そう言うと志成がけらっ、と笑う。
「必勝祈願!」
「それだ!」
僕と志成の遣り取りを見て、田中さんが志成に言う。
「加ノ上さん、すごく笑うようになったね」
「田中さんと樹くんのお蔭だよ」
「え? どうして?」
「どうしても」
「加ノ上さんって、不思議」
「え?」
「本当のこと言うとね、加ノ上さんがわたしのポジションを取っちゃったみたいにしばらくもやもやしてたんだ」
「・・・ごめんね」
「ううん。加ノ上さんが悪い訳じゃない。わたしの嫌な部分の話。ただ、大志くんとわたしの関係が加ノ上さんに取られちゃったみたいな、いやーな気分になってた時期もあったんだけど。でも、加ノ上さんならしょうがないかな、って今は思う」
「やっぱり、ごめんね」
「・・・多分、加ノ上さんが光の面だけじゃないからだと思う。ううん、むしろずっと陰で辛い思いをしてきたんだから許せるんだと思う」
「・・・田中さんだって辛い思いしたよ」
「でも、加ノ上さんほど深く長くじゃないから。すごいって思う」
「ありがとう」
「でも、大志くんと結婚するっていうのは認めた訳じゃないからね」
一応、2人はにこにこしながら楽しそうに話をしている。でも僕は怖くて声を掛けられない。公園の方角に花火が上がった。とにもかくにも年が明けた。




