CEOに指導をくれてやる
前日のアポなのに、
「先代のばばです」
と言っただけで市長はスケジュールを空けてくれた。
双輪市役所の1F。住民票や戸籍を取りに窓口で待つ人たちを見ながら、ばあちゃんと僕はエレベーターで市長室に向かう。
6F。商工労働部なんかと同じフロアーの一番隅に市長室はあった。
秘書? なのか分からないが、中年男性が市長室に僕たちを通してくれ、彼はそのまま執務に戻った。
「先代さん、ご無沙汰しております。ご主人のお葬式以来ですね」
そう言って市長は入り口まで僕たちを出迎え、応接テーブルに座らせてくれた。そのまま僕たちに急須でお茶を淹れてくれた。
「市長自らお茶出すのかい」
「ええ。わたしのお客さんですからね。職員もそれぞれ執務がありますし」
「これは私の孫ですわ」
「先代大志です」
「市長の林です。おばあ様には大変お世話になっております」
50代半ばの中年男性なんだけれども、テレビで見るよりはるかに若い。それと、笑顔が嘘っぽくないので好感を持った。
「市長。あんたの父親が死んで何年になる」
「20年ですね。私もとうとう父の年齢を超えましたよ」
「あんたが初めて姑様の所へ来た時、高校生じゃったな」
「ええ。ちょうど大志さんぐらいの時分でしょうね。父が最初の選挙に出る時です」
「本当ならあんたの父親は国会議員になる運は無かった」
「ええ。分かっています。父は国をなんとかしたいという思いで、”先生”が不思議な力をお持ちだと噂で聞き、出馬の相談に行ったんです」
「”先生”はよしなされ。姑様も私も、市長の一市民に過ぎんからの」
「まさか。本当は人間の呼称で及びするのすら畏れ多いぐらいです」
「あんたの父親は心底国を良くしたいという真心を持っておられた。じゃから姑様は”運”を授けたんじゃ」
「はい。まざまざと覚えています。対立候補が悉く汚職で自滅して父が当選。”先生”のお力が恐ろしいくらいでした」
「そうじゃったな。神仏は必ず正しい者の後押しをなさる。要はそれを待てるか待てんかの話じゃ」
「ところで、今日のご用向きは」
「うん。それは私の孫が話しますわい」
ばあちゃんに促され、失礼します、と言って、僕はテーブルの上にノートPCを取り出し、市長に画面を見せる。
「市長。3月に市民プラザでコスプレサミットが開催されますね」
「ええ。今年で5年目。地方開催のイベントとしては日本でも5指に入る規模に成長しました。今や海外からも大勢の方の参加をいただいてます」
「スポンサーは足りてますか?」
「実は、開催期間を1日から3日間に延ばすこともあり、募集中です。正直、もう一息ですね」
僕は、タ、と画面を変える。
「この企業、ご存知ですか?」
「Natural Age・・・リアルなオンライン人生ゲームをやってる会社ですね。ええ、名前だけは」
「CEOは双輪市の出身です」
「え、そうなんですか? や、これは不勉強でした」
「市長、この企業にスポンサーの打診をしていただきたいんです」
「Natural Ageにですか? ですが、世界のトップ企業が地方自治体のイベントに乗るかどうか・・・」
「それは大丈夫です。打診さえしていただければ、必ず受けるよう仕向けます」
「仕向ける?・・・大志さんが?」
「はい。それで、1つだけ条件を提示して頂きたいんです」
「何でしょう」
「CEOと市長の会見をイベント会場で行いたいと」
「事情をお訊きできますか?」
「すまんが、市長にも全部は言えん」
ばあちゃんが、すぱっ、と答える。
「ただ、この会社とシーイーオーとやらには、”指導”をくれてやらんといかんと神仏が仰せなのじゃ」
「・・・こちらも1つだけお約束ください。決して市民に危害を及ぼさないよう」
市長の言葉に、ばあちゃんが僕に向けて顎をしゃくる。
僕は姿勢を正して答えた。
「神仏に誓って、僕が市の人々を守ります」




