そこまで非常識じゃ、ない
「はっきり言って、2人とも怖かった」
向井さんはそう言ったけれども、内心ワクワクしてるようだ。”戦い”が文字通りの”戦い”であったことに満足そう。じゃあ、また、と言って車で東京に戻って行った。
僕は、”護送” のため、新幹線の改札に向かう。ポケットにスプレーを握り込んで。
「あの、嶋さん」
志成が心配そうな顔で嶋に向かって話し掛ける。
「嶋さん、アメリカに戻ったら殺されたりしないですよね?」
「・・・一応、そこまで非常識な会社ではない」
常識と非常識の境目がもはや無茶苦茶だけれども。
僕は駅で嶋に県名物の押し寿司の弁当を買ってあげた。
「お腹、すいたでしょ」
「・・・ああ」
嶋は弁当を食べる時以外、車中でずっと目を閉じていた。途中停車駅が近づくと、
「トイレ」
と言うので、その都度僕もついて行き、スプレーを手に前で見張った。東京駅から羽田に向かう間も同じようにした。
「逃げやしないよ、もう」
「僕は臆病ですから」
「どこが・・・」
羽田のフードコートで2人して讃岐うどんを食べ、カフェでキャラメルラテをごちそうしてやった。
時間になり、チェックインカウンター前までついて行った。チェックインを見届け、タラップまで歩き出す嶋に、バイバイと手を振った。嶋も複雑な表情ながら、ちょっとだけ手を挙げて振り返してくれた。
インディケーターで便の出発を確認した上、カウンターで、
「今の便、チェックインしたお客さん、全員搭乗してますよね?」
と訊いた。男性職員が、
「もちろんです。そうでないと離陸しません」
と答えるのを聞いてようやく僕は空港を後にした。
あんな危ない奴が日本にいたら、夜もおちおち眠れない。




