ざっ、と流れる水
一応僕のプランでドライブすることになった。
僕らの県はほぼ正方形なので、面積の割には東西南北が適度な距離だ。加えて県庁所在地にある双輪市は県のほぼ真ん中に位置し、車ならどんなに遠くでも半日で帰って来られる。
「じゃあまず連峰の紅葉を」
僕らは3,000M級の山々が連なる連峰の麓へと向かった。寺田さんの運転はとても快適だった。踏むべきところでは大胆にアクセルを踏み込んでメリハリがある。
「運転うまいですね」
と褒めると、
「ホンダがすごい」
と謙遜した。
さすがに標高の高い所へは時間が無くて行けないので、その手前の滝に向かった。
「うわ、すごいな」
落差200Mの雄大な滝が見えてくると、寺田さんは車を加速させた。
滝の側までは歩かないと行けない。車を停めて、他の観光客と一緒にぞろぞろと歩く。転落防止の鎖が張られた遊歩道をよっ、と登り、背中が汗ばんだ頃、展望スペースにい着いた。滝に最接近するポイントだ。
「おわー」
向井さんが滝を前に背伸びする。
「すげーすげー」
寺田さんも真似る。僕は2人に滝の解説をしてあげる。
「この滝、すごい音でしょう。でも、耳を澄ますとお経を称えてるように聞こえると言われてるんですよ」
「・・・そういえばそんな気がしてきた」
「今の時期は水量がまだ少ないですけど、雪解けの時は更に迫力ありますよ」
4人でベンチに腰かけ、しばしぼうっと滝に見とれる。不意に志成が僕に話しかけて来た。
「滝って、いいよね」
「え?」
「澱みないっていうか。何かもやもやしたものを一気に、ざっ、て流してゆく感じ」
「うーん、確かに」
向井さんが志成に質問する。
「志成ちゃん、復学したら大学はどこ受けるつもり?」
「まだ決めていませんけど、社会の差別構造を研究できるような大学がいいかな、って漠然と」
「東京、おいでよ」
僕は、ぴくっ、と反応する。
「東京なら選択肢は広がるよ。同じテーマを研究するにしても色んな切り口の大学がある。面白い人間もいっぱいいるし」
「どこだってできますよ」
思わず言ってしまった。向井さんは柔らかく更に受けてくれる。
「大志くん。確かに今の世の中、ネットのお蔭で世界じゅうつながってる。交通だってそう。現に明日はアメリカからトップ企業の幹部を呼びつけてる訳だし。ただ、”リアル都市” としての中心は今でも一応東京だから」
「向井、そうでもないよ」
寺田さんがぽつりとつぶやく。ふうっ、と一つ息を吐いてからうつむき加減で続ける。
「中心って言っても、メディアのリアル本社があったり、国会議事堂っていう政治のリアル施設があったりっていうその程度だろ? 美術館、コンサート、ショップ。確かにまさしく、”本物” がいっぱいあるけど、それを観たり聴きに行ったりする東京都民1人1人が ”本物” って訳じゃないだろ」
「ああ、ああ・・・」
「人のせいにする訳じゃないけど、向井も俺も、お互いに前の会社の奴らが ”本物” だったら、俺らうつ病になって辞めたりしてないだろ」
「なるほどな・・・」
「この2人を見てみろよ」
急に言われて僕と志成はどきっとする。
「日本を救うために休学してバイトしながら敵と戦う・・・そんな高校生、東京に居るか?」
「いない」
「だろ? しかも敵を倒したからって社会的名声を得られる訳でもない。そもそも2人が戦ってることなんて誰も知らない。せいぜい大志くんのばあちゃんが褒めてくれるだけだ。でもやっぱり、この2人、”本物” だろ?」
志成が照れ隠しにぽつっと言う。
「そんなわたしたちに付き合ってくださる向井さんと寺田さんこそが、”本物” ですよ」
滝を見た後、山から一気に海へと下り、魚市場関係者が集う食堂で名物の掻き揚げ丼を食べた。夜はお2人が宿泊するホテルのディナーをごちそうになり、土曜のスケジュール終了。




