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タイシとシナリ  作者: @naka-motoo
第7章 最後の敵~決戦前になすべきこと
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作戦開始

 近田忠の父親もとても柔和な人だった。ばあちゃんの話も途中で遮らずに聞いてくれた。


「つまり、忠が日本を滅ぼす引き金になるかもしれないということですか」

「お父上。こんな荒唐無稽な話を気違いの戯言と思われるかもしれません。ましてや息子さんの悪口と取られるかもしれません。じゃが、このばばの命に懸けてお姑様のお告げは事実なんですわ・・・」


 父親は大徹さんの掛け軸に向かい、そっと手を合わせた。


「分かりました。息子のなす事は私らの責任です。お話しましょう」

「ありがとうございます!」


 僕は手をついてお礼を言った。志成も手をついて礼する。ばあちゃんは父親に手を合わせ、南無阿弥陀仏と称えた。



「忠はそれは利発な子でした。親の欲目ではありません。客観的に見て、まさしく神童でした」

 

 それはものすごい逸話だった。学業抜群はもちろん、小学生の時は学級委員長として、争いやけんかもせずに、己の人格だけでクラスのいじめを一掃した。中学の時はハンドボール部の主将を務め、顧問の先生と協力しながら不良を部員として引き受け、見事彼らを更生させた。高校では生徒会長として震災のボランティア活動を先導した。10代の若者たちが人の死と向きあい、多くの人の心を癒したと全国紙で取り上げられた。


「あいつは東大文Iに入学しました」

「あれ? IT企業の社長なのに、理系じゃなかったんですか?」

「ええ。官僚志望でした。世間から役人が叩かれている今こそ、自らが汚泥に飛び込んで国を立て直さなくてはならん、と」

「天晴じゃのう」

「ですが・・・東大法学部という場所がいけなかったのか、忠にもともと闇の部分があったのか・・・卒業する頃には理解し難いことを私たちに話しました」


・・・・・


”僕は、アメリカに行くよ”

”何? 試験に受かって、財務省の内定も得たんだろう?”

”うん。でも、それじゃ間に合わないって分かったんだ”

”間に合わない? 何が?”

”もうじき世界がダメになる。みんなバカすぎるんだ”

”何だと? お前が”バカ”なんて言葉を使うとは・・・”

”でも、事実、バカなんだ。だからバカでも暮らせる世界を造ってやらないといけないんだ”

”何だ、世界を造る、ってのは”

”父さんに言っても分からないよ”

”私もバカだからか”

”・・・とにかく、大学の友達とアメリカで事業を起こす。しばらく日本には帰れないから”

”待て。ばあちゃんが入院中で、もう長くないかも知れん。それにお前は1人息子で跡取りだぞ? 仏壇や神棚はどうしていくつもりだ。墓も放っておくのか”

”父さんに任せたよ”

”何を気楽なことを。私だっていずれ死ぬんだぞ。その後、誰が仏花を供える。誰が榊を換えるんだ”

”神仏の”法”は人を救う”法”じゃないよ。新しい”法”が必要なんだ”

”何を!? どの口が言っとるんだ!”

”父さん、もう切るよ”


「それきりです。そのまま10年経ってしまいました」

「? 携帯電話とかつながらないんですか?」


 志成が素直に訊く。


「おそらく、会社の機密守秘の問題上でしょう。以前の番号はつながりませんし、新しい番号も教えて来ない。私の携帯とPCに一方的にメールは送られてきますが、そのアドレスに返信しても、returned mail で届かない。次はまた別のアドレスから送られて来る」

「徹底してますね」

「そうです。あいつは徹底して表には出ない」

「Natural Ageの社長が日本人だなんて知りませんでした」

「ええ。私にしたって、あいつがアメリカに行って3年経ち、初めて社長になっていることを知ったんです」

「どうやって?」

「わたしの預金口座にある日突然1千万円が振り込まれたんです。正確にはドルレート換算で、1,015万円でしたが」

「え?」

「振り込みは、Natural Age Co.となっている。銀行に問い合わせましたが、間違いではないと。ほどなくして忠からメールが届きました」

「何て言ってきたんです?」

「自分はオンラインゲーム会社のCEOになったと。これから人類のために貢献すると。この金は自分の役員報酬の一部で、便宜上会社の口座から父さんに振り込んだものだから正当なものなので安心しろ、と。私は会社をネットで検索しました。そしてその商品であるというオンラインゲームも実際にやってみました」

「ご自分で、ですか?」

「はい。もしこのゲームの世界があいつの言う新しい世界だとしたら、愚かな事この上ない。私は1千万円を送り返そうとしたが、法律や税務面でも手続きが複雑すぎて無理でした。色々考え、全額震災復興基金に寄付しました」

「どうしてそこまで・・・」

「家の神仏を守るということは金なんぞで果たせる責任ではないのです。1千万円ごときで私が死んだあと、何百年も仏花や榊を換えてくれる人を雇うことができますか? 無理でしょう。あいつがどんなに成功を収めたとしても、この重責を果たすことは誰にもできんのです」

「お父上、よう言われた。それこそこのばばがここにおる大志に叩き込んだことですわい。必ずやご子息をお救い申す」

まことですか?」

「神仏のお言葉にたがいはない!」


 さあ、作戦開始だ。

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