表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイシとシナリ  作者: @naka-motoo
第7章 最後の敵~決戦前になすべきこと
111/142

リバの名付け親

 クラス展示も模擬店も全部素通りして実行委員本部に向かった。隠れるようにして戸を開ける。


「お?」

「あ、大志くんだ」


 ああ。懐かしい。この感じ、久し振りだ。


「おー、大志ー。来たかー」

「樹、メールありがとな」

「樹くん、こんにちは」

「加ノ上さん、元気だった? 私服姿、初めて見たけど、イケてるねー」


 志成は細身の黒のデニムにクリーム色のバスケットシューズ。上はブルーストライプのワイシャツとクリーム色のニットのカーディガン。珍しくピンで前髪を分けている。


「田中さんは?」

「ああ。5組に行ってる。午後いっぱい喫茶店のウエートレスだって」

「5組か・・・」

「もし何だったら大志だけでも行く? 加ノ上さん、お茶とお菓子とかあるから、ここで待っててもいいよ?」

「ううん。わたしも行く」


 樹もついて来る、と言ったけれども、断った。わざわざあいつに負担をかける訳にはいかない。ただでさえ色々と無理してくれてるのに。

 志成と2人で何食わぬ顔をし、客として5組の教室に入った。ぱっ、と田中さんが目に入ってたので軽く会釈し、席に座る。すぐさま彼女自らがオーダーを取に来てくれた。


「田中さん、今日は招待してくれてありがとう」


 2人してお礼を言う。


「大志くん、加ノ上さん、元気だった? 来てくれてすごく嬉しいよ」


 田中さんの目がやや潤んでいる。多分4月以来、僕の知らないことがいっぱいあったんだろう。


「お客さん、少ないね」

「うん。ちょっと早いけど、大志くんたちでラストオーダーだから。もう閉店の準備始めてたところ」

「そっか。ぎりぎりラッキー」

「何にする?」

「じゃあ、ホットコーヒー」

「わたしも」


 ”ホット2つでーす”

 ”はーい”


 田中さんが行くと背後に気配を感じた。振り向くと、広田沙耶と他に3人立っていた。広田沙耶が直接やり取りを始める。


「リバ。何しに来た」

「コーヒー飲みに」

「お金要らないから、帰れよ」


 志成は首を振る。


「じゃあ、先代? だっけ? リバ連れて出てって」


 志成が、たっ、と立ち上がって広田の前に進む。何する気だ?


「広田さん」

「あ?」

「わたしに会いたくないなら、あなたがいなくなればいい」

「何?」


 田中さんがコーヒーを持ってきた。


「広田さん、やめなよ。他のお客さんもいるんだから。加ノ上さん、座って。コーヒー飲んで」

「田中、お前も本格的にいじめてやろうか」

「どうぞ、やりたきゃやって。どうせ大学はバラバラなんだから」

「受験どころじゃなくしてやろうか」

「・・・・」

「広田さん」


 志成がもう一歩前に出る。さっきまでのうつむいていた彼女とは別人の顔だ。懐刀を自分の喉に突き付けた、あの目だ。


「あなたがいなくなればいい・・・」

「はあ?」

「それで、収束する」

「ふざけんな!」


 広田の声が荒れる。


「リバのくせに!」


 志成が笑う。


「そうだよ、リバだよ。あなたが名づけ親の、リバだよ」

「こいつ、おかしいのか?」


 広田は仲間に同調の笑いを求めるが、誰も笑わない。


「広田さん。あなたってほんとに空気読めない人だね。笑っていい時と駄目なときも分かんないんだ」

「お前も笑ってるじゃないか」

「だって、わたしには笑う資格があるもん。あなたには笑う資格も権利もない」


 志成は更に顔を近づける。


「分かるよね?」


 広田が無言になった。


「わたし、あなたをいなくする具体的な方法をこの8カ月間に学んだ。それを実行することも覚えたし、他の人たちに何回かやった。あれ、笑わないの?」

「早く、帰ってよ・・・」

「ううん。もうちょっと待ってね。あと1つだけ。わたし、大志くんと結婚するから」

「!」

 

 田中さんの表情が変わった。


「今、大志くんと2人でやってることが終わったら、ほんとに結婚するから。あれ、広田さん? キモいとか言って笑わないの? ねえ、笑いなよ? あの頃みたいにさあ・・・」

「やめて」


 そう言ったのは田中さんだった。


「加ノ上さん、もうやめてあげて。広田さんはもう、今までみたいなこと、多分しないよ。だから、広田さんを許してあげて」


 志成がすっ、と半歩引く。


「田中さん、ありがとう、今までずっと。わたし、田中さんのこと、好きだよ」


 一瞬、志成の笑顔が優しくなる。でも、次の瞬間、すぐにまた薄い冷たい笑いに戻る。


「でもわたしは広田さんのことは許せない。いつか8カ月間であの人たちにしたのと同じことをして、あなたを ”いられなく” してあげる」


 ”沙耶、謝りなよ” とおびえた仲間が小声で促す。


「ごめ・・んなさい・・・」


 志成が突然真顔に戻る。


「嫌。やめない。もう、遅い」


 そう言って教室の出口へ早歩きして行った。


「田中さん、ありがとう。また連絡するよ」


 田中さんは顔を両手で覆い、声を抑えて泣いている。僕の声に首だけうん、うん、と頷いている。廊下に出ると樹が来ていた。


「どうしたんだよ、大志、加ノ上さん? 大志、お前ら一体誰を相手に、何やってんだよ?」

「言えない。全部終わったら必ず話すから。またな」


 早口で樹に別れを告げ、志成の後を追う。ものすごいスピードで志成はもう校門の外に出ていた。


「どうしたんだよ、志成! 志成!」


 くるっと志成が振り返る。ぐしゃぐしゃに泣いていた。


「だって・・・あんな程度の人のためにずっと ”リバ” でい続けたなんて・・・馬鹿らしくて、笑えた」


 えっ、えっ、としゃくり上げてる。子供の泣き顔だ。


「でも、脅しすぎだよ、志成」

「ううん、まだ足りなかったかも。気がおかしくなるくらいにしとかないと、広田さんは絶対田中さんをいたぶる」

「志成・・・」

「もし田中さんをいたぶったら、広田さんをほんとに”消す”。いままで敵にしてたみたいに」

「分かった。分かったよ・・・」


 どうしてやればいいか分からない。自然に志成を両手でそっと抱き締めていた。

 志成は僕の胸に顔を当てて泣き続けた。


「みんなには何人もいるかもしれない。でも、わたしには大志しかいない。大志だけなんだよ・・・」


 泣き止むまで、彼女の背中をさすり続けてあげた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ