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鮮の章-9
「すぐ聞げっから」
「……え?」
加賀美の一言に戸惑うルカの耳にかちりと時計の針がぴたりと合ったような音が響いた。
細く、小さく、清らかな。
どこか懐かしい、帰りたくなるような。
悲しい女性の歌声が聞こえた。
「からすなぜなくの
からすはやまに
かわいいななつのこがあるからよ
かわいいかわいいと
からすはなくの
かわいいかわいいと
なくんだよ
やまのふるすに
いってみてごらん
かわいいめをした
いいこだよ」
今までワンフレーズしか歌わなかった声が。
昼には途中で止まった声が。
これがまるで最後であるかのように名残惜しげに歌い上げた。
途端に。
「ルカちゃん」
加賀美の声がした。
振り返ると。
「おみょーぬづ」
笑顔の加賀美。
肩から腰にかけて袈裟懸けに斬られ、冗談みたいな量の血を噴き出していた。




