鮮の章-8
「加賀美さん、これって」
ルカは掠れた声で加賀美に確認する。加賀美は血に濡れた一ページを見て、苦い面持ちになる。
「ハルカちゃんはねぇ、カナタが死んで、一回だけ自殺未遂をしたんじゃよ。これはそのときのもんだね」
自殺未遂という言葉にルカは愕然とする。
それほどまでにハルカは追い詰められていたのか。
その血のせいで残りのページはほとんど潰れていた。最後の方のページは無事のようだが、何かが書かれた形跡はない。
シオンへのメッセージだけが存在しない。
ひどくそれが悲しかった。
「ルカちゃん。ハルカはシオンくんを生んですぐ病んでしまった。それが全部の引き金になってもうたかもしれない。でも、ハルカちゃんは子どもたちが憎かったわけではないよ。それはわかってけろ」
それから、と加賀美はブックエンドにあった一冊のハードカバーを引っ張り出す。
それはルカには見慣れたモスグリーンのハードカバー。タイトルは金字で"七つの子"。
「トウコちゃんがね、亡くなる前の晩に返しに来たんだよ。ハルカちゃんが読んでた本みたいだねぇ」
ルカは中を開いてみる。すると中には色々と書き込まれていた。
登場人物のところに現実の人物の名が書き込まれている。
お父さん→彼方
一番上→緑里
年子姉妹の姉→赤音
年子姉妹の妹→瑞黄
引っ込み思案→橙子
双子兄弟の兄→青葉
双子兄弟の弟→詩藍
末っ子→紫苑
お母さん→私
順番
紫苑→緑里→瑞黄→赤音→橙子→青葉→詩藍
私は耳を
最後のページのところまで横線が引かれたりとかなり読み込んだ跡がある。
最後、兄弟たちの祈祷が成功したかどうかがぼかされている一行の隣に殴り書きがしてある。
成功するわ。成功させなきゃ! でないと私は、私は、私は!!
あれ? でも何か足りない気がする。
そうだ。胴。
何故、内臓が必要なのにその外見である胴体は書かれていないのだろう?
読み終え、ルカはぞっとした。確かに、祈祷の中で"捧げるもの"の中に"胴体"はなかった。
まさか、という思いがよぎる。
まさか、胴体が足りないから成功しないのだ、などと、また誰かが犠牲になったりはしないのだろうか。
そうであってもそうでなくとも、誰がこんな悲劇を引き起こしたのか、突き止めなくては。
いや……もうこの本で答えが出ているのではないか。
ハルカは"七つの子"の祈祷を実行しようとしていた。カナタを蘇らせるために。
あの歌声はハルカのものだったんじゃないのか。
ルカは加賀美に振り向く。かっちり目が合った。
「加賀美さん、お聞きしたいことがあります」
「なんだえな?」
「ハルカさんの声って、何かに録音していませんか? 聴いてみたいんです」
ルカの要求に、加賀美は笑みを深めた。
「ごめんなぁ、録音したのはねぇんだ。でも」
加賀美は微笑んだまま、告げる。
「すぐ聞げっから」




