鮮の章-7
未熟児。
生まれた子どもはそう告げられた。一〇〇〇グラムそこそこの小さな子ども。ちょっと力を入れるだけで簡単にぼろぼろと崩れてしまいそう。壊れてしまいそう。
殺せてしまいそう。
怖くて抱けないわ。あんな小さな子。
名前は考える気がしなかった。彼方は"とうこ"と名付けたらしい。
"倒れる子?"と聞いたら、そんなわけないだろうと笑われた。
字は穹に任せたらしいけれど、"橙の子"と心の中で決めたという。
赤よりも柔らかく優しい色。そんな子に育ってほしい、と。
橙子へ。
とても怖がりなあなたの名前はお父さんが考えた暖かくて優しい名前なの。
あなたが名前のような暖かく優しい世界で幸せに生きられることを祈っています。
双子、だって。
橙子のときは酷く鬱っぽくなってしまったけれど、今回は素直に喜べた。
けれど変わらず彼方は不健康そう。
いつも傍にいて支えていられればいいのに、私はまた病院のベッドの上。
彼方にしてあげられるのは、弱々しく微笑むくらい。そうすると彼方も笑ってくれる。
私は幸せだけれど、彼方は幸せ?
怖くて聞けない。
穹に預けるのはこの双子で六人目か。だいぶ穹にも頼りきりになってしまっている。
でも穹は私たちに子どもができたというと、自分のことのように喜んでくれる。子どもたちのことは穹に任せてばかりなのに、穹は一つも文句を言ったりしなかった。
穹の友達でよかった。穹が友達でいてくれて、よかった。
上の四人の子どもたちはそれぞれ引き取り手が見つかったそう。双子も含め、みんな幸せになってくれればいい。
ありふれたことしか願えないけれど、本当に、どうか。
もうね、子どもの名前は穹のためにつけようと思うの。
だから双子の名前は青葉と詩藍。
もちろん、本当の字は自分の中に秘めておくわ。
あと一人だけ足りないけれど、ごめんね。
穹が虹の下で幸せになれるように。
青葉と詩藍へ。
あなたたちを生むまでお父さんとお母さんが生きていられたのは奇跡でしょう。
もうこれ以上を願うのは欲張りかもしれない。
でも、身勝手にあなたたちを捨てた責として、祈り続けます。
七人目が生まれた。
今回も長く入院した。途中から彼方は忙しくてお見舞いに来られなくなったみたい。変わりにるゐさんと穹が来てくれた。
穹の元気そうな顔を見られて安心した。孤児院の方は上手くいっていると聞いていたけれど、本当のようでよかった。
退院の日。
私の退院を喜びながら、穹もるゐさんも、何故だか悲しそうな顔をしていた。
二人が私に告げたのは。
彼方の死。
ある日仕事から帰ってくるなり眠って、それきり目覚めることなく。
彼方が死んだ。
彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ彼方が死んだ
何故? 何故?
どうして彼方はもういないの?
私の帰る場所はどこ? 彼方はどこにいるの?
彼方がいなきゃ、私はどうすればいいの? 生きてちゃいけない。
死ななきゃ、死ななきゃ死ななきゃ。死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死んで、彼方のところに。そうすれば、生きている意味がわかる。
死ななきゃ。
そのページはべしゃりと赤にまみれていた。




