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七つの子  作者: 九JACK
鮮の章
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鮮の章-6




 ここから少しの間、ハルカさんの日記が続きます。

 鬱っぽい描写がありますので注意。





 幸せになることが夢だった。

 彼方と結ばれることが夢だった。

 幼い頃から体が弱くて、病気がちでなかなか友達を作れなかった私の傍にいつもいてくれたのは彼方と穹。あの二人には感謝してもしきれない。

 ここ数年、穹は大変だった。大きな病気をして、子どもを生めなくなった。

 穹がそんな大変なときに、私は幸せな夢を叶えた。彼方と結婚したのだ。

 穹にはとても、申し訳なかった。けれど彼女は祝福してくれた。


 私と彼方には子どもができた。

 男の子だ。子どもを生むのも夢だった。病弱だから、叶わない夢だと思っていたけれど、嬉しい。

 けれど、子どもを生んでも私は育てられない。悲しいけれど、私の病気は治っていないし、働けない私の分まで頑張っている彼方にこれ以上のことは無理だ。

 だから私たちは子どもが生まれる前から決めていた。生まれたら、穹に預けよう、と。

 穹は私たちの事情もよくわかってくれているし、何より彼女は世話上手だ。安心して預けられる。

 私たちは子育てはできない。

 これは一種の押し付けかもしれない。でも、穹には穹なりの形で幸せになってほしい。私たちの子どもが穹の幸せの手助けになれば嬉しい。

 だから名前の半分は穹に考えてもらうことにした。私たちは音だけ考えて、穹に字をつけてもらう。穹はそれでいいの? と遠慮していたけれど、彼女の子でもあるのだ。むしろ彼女につけてもらった方がいい。

 新緑の季節に生まれた子はみどりと名付けた。

 本当は字も考えたけれど、穹には内緒。

 彼方と私、二人だけの秘密だ。


 緑里。


 緑里へ。

 勝手なお母さんでごめんなさい。

 でも、お父さんのことは憎まないでね。私たちは本当に、あなたが生まれてくるのを楽しみにしていたの。

 穹から送られてくる写真を見るたび思うわ。あなたはだんだんとお父さんに似てきている。

 やっぱり、親子なのね。

 あなたの幸せを祈ります。


 女の子が生まれた。彼女は夕暮れ時に生まれたから"あかね"。

 次の年にはまた女の子が生まれた。

 ハナミズキが咲いていたから"みずき"。


 赤音と瑞黄へ。

 二人共、元気に毎日過ごしていると聞いたわ。

 緑里とも仲がいいんですってね。

 これからもずっとずっと仲良く過ごしてね。


 冬。

 寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。

 とても、寒い。

 痛い。苦しい。寒い。辛い。怠い。眠い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 私は死んでしまうのだろうか。この子も死んでしまうのだろうか。

 縁起でもないことを言うなと彼方に怒られた。

 でも、ひたすらに辛くて、苦しくて。私はどうしたらいいかわからないの。

 医師や看護師が陰で「今度こそあの人は死ぬかもしれない」なんて言うの。

 怖い。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 もう、嫌だわ。この子なんか生まれてこなければいい。

 私なんか死んでしまえばいい。

 彼方が見るたびに痩せ細っていく。それでも笑顔で私を励ましてくれる。

 だから私は生きていられる。彼方のために死んではいけないと思う。

 でも、彼方に苦労をかけているのはいつも私なんだ。

 彼方の手が細く頼りなくなるのは、私の、せい……

 本当に私なんて、いなくなればいいのに。




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