鮮の章-5
加賀美の家にやってきて、ルカがやろうと思ったことは一つ。
「加賀美さん。隣の部屋を見せてください」
ルカの意外な頼みに加賀美はきょとんとする。
「なしてそいなことを、ルカちゃんが?」
もっともな意見だ。
ルカは意を決して、これまでに起こった事件と今日の出来事、そして"七つの子"の話をした。
どうしても長くなってしまう説明を、加賀美は黙って最後まで聞いてくれた。その表情に驚きはなく、ただ話の全てを事実として淡々と受け止めているようだった。
「そうかい。トウコちゃんも、ミズキちゃん、アカネちゃん、ミドリくん、シオンくんにアオハくん、シランくん……孫も皆いねぐなってしまったか」
やはり加賀美は自分の息子の子どもの存在を知っていたようだ。それもそうだろう。彼女は隣のハルカの面倒も見ていたのだ。
「"七つの子"は、悲しい話さね。本当、その母親はハルカちゃんそっくりだよ。どんな偶然か七人の子を生んでしまったことが、あの子を病ませてしまったんねぇ」
質の悪すぎる偶然だ。それとも、運命の悪戯なのだろうか。
どちらにせよ、ルカには知りたいことがあった。
「わたしは、ハルカさんが本当は何を思っていたのか知りたいんです。本当に、カナタさんを蘇らせるために事件を起こしたのか、そもそも誰が起こしてしまった事件なのか……どんな真実だったとしても、ハルカさんは救われないかもしれません。でもわたしは、目撃者に選ばれたのなら、ちゃんと真実を見つめたい」
「真実、ねぇ」
加賀美は顔を翳らせる。
「何が"まこと"なのかねぇ。でも、そうだねぇ。きっと、誰かに知ってもらった方が、あの子も報われるってもんだよ」
おいで、と加賀美は部屋を出た。向かうのはもちろん隣の部屋。どうやら合鍵を持っているらしい。
かちゃり、と扉が開いた。この部屋はハルカが自殺して以来、誰も住んでいないという。加賀美も高齢なこともあり、なかなか荷物を整理できないらしい。
「まあ、そのうちソラちゃんにでも手伝ってもらおうと思ってるけどね」
部屋は加賀美のところと同じ配置だった。加賀美は奥の洋間に行き、しゃっとカーテンを開けた。
片付いていないという割に、部屋の中はさっぱりとしていた。物が少ない。あるのは大きな家具のみ。
「好きに見ていいよ。ばあちゃんはこごで見でっから」
「はい」
ルカは早速テーブルの上に綺麗に重ねられていたノートを手に取って見る。
表題はない。ぱらりとめくると、ばさばさと何かが落ちた。
落ちた何かを拾い集めると、それは写真だった。見覚えのある顔があった。
ミドリ、ミズキ、アカネ、トウコ、アオハ、シラン、シオン……七人兄弟が各々写ったもの。
「ソラちゃんがね、ハルカちゃんとカナタの励みになるようにって送ってくれたんだよ。シオンくんのは少ないけどもね」
皆、幼い頃の写真ばかり。ミドリはコンビニでよく見た爽やかな笑顔に幼さを宿していて、ミズキとアカネは土まみれ埃まみれになったやんちゃな写真が多かった。トウコは上目遣いでカメラを見ていたり、ぎゅっと目を瞑って何かしらを抱きしめていたり、当時から大人しげだったのが窺える。
アオハとシランはそっぽを向いていたり、カメラを無視で本を読んでいたりと二人の性格がよく表れていて、ルカは思わずくすりと笑った。
加賀美の言ったとおり、シオンの写真は一番少なく赤ん坊のときの写真が主だ。それがなんだか胸に苦しかった。
写真を一通り見終えると、ルカは改めてノートを開く。
そこにあったのは。




