鮮の章-3
「……シランには、兄弟のこと教えたんですか」
「そうよ。あの子はあの兄弟の中では一番賢かったから」
賢かった……? ルカにはぴんと来なかった。シランは確かに頭は悪くなかったが、抜きん出ていいというほどでもなかった気がする。
「それはそうよ。あの子は狙ってそう見えるようにしていたんだから。アオハくんが引き取られたときにしたって、片倉さんに無愛想な態度を取ったのはわざとだったらしいからね。行きたくなかったんですって」
虹の瀬から告げられたシランの本音にルカはただただ驚くばかりである。
「兄弟のことも、名前と年齢とちょっとした特徴を教えただけで、次々に見つけちゃって。留学していたミズキちゃんはさすがにわからなかったみたいだけど。
最初に見つけたのは、アオハくんみたいね。やっぱり双子だからかしら? お互いに通じ合うものがあったのかもしれない。それからハルカ……お母さんのことも探したみたいだけれど、そっちは見つけられなかったみたいね」
「先生はハルカさんのことはシランに教えなかったんですか?」
「そっとしておいた方がいいと思ったのよ」
虹の瀬はルカの手からそっとノートを抜き、数ページめくる。手が止まったのはシオンについて書かれたところだった。
──年十月──日
しおんくん
カナタとハルカは七人目の子に恵まれたが、カナタは病気で亡くなってしまった。
七人目の子の名前を病院の電話口で私に伝えると、ハルカはぷつりと糸の切れたように意識をなくしてしまったらしい。
その後ハルカは心を壊し、精神病院への入院を余儀なくされた。
この子はカナタとハルカの間に残された最後の子だが、やはり育てるのは難しいようだ。ハルカとちゃんと話をできなかったが、こちらで引き取って育てることにした。
とても大人しい子のようだ。人見知りというわけではないようだが、雰囲気はどこかとうこちゃんに似ている。
三歳。塔藤夫妻に引き取られた。
「心を病んだハルカと子どもたちを会わせたくはなかった。ハルカが治るまで……カナタとの間の子に会わせて、狂わせたくなかったし、そんな母親を見せたくなかった。でも、だからこんなことになってしまったのかしら。今更後悔しても遅いでしょうけれど」
虹の瀬はアオハやシランからちょくちょく事件の話を聞いていたらしい。"七つの子"の話も大まかには知っていて、まさか、と思っていた。
だが、アオハが死んだところでハルカがやっているのだと確信し、虹の瀬はハルカの住む場所を訪ねたのだ。
「でも、ハルカは死んでいて……一体誰がこの事件を引き起こしたのかしらね」




