哀の章-8
子どもたちからもルカはたくさんプレゼントをもらった。
似顔絵、手紙、折り紙……上手だったり、下手だったり。けれどもどれも子どもたちの一所懸命な思いが伝わってきて、ルカの目からは涙が零れた。
ルカが泣くたび、子どもたちは心配そうな眼差しを向け、そして何故かシランのせいにする。シランは目一杯反論したが、時折それらしい子どもたちの主張に説き伏せられたりしていた。
そんな光景を眺めて微笑むルカの傍らに、虹の瀬がやってきた。
「ルカちゃん、楽しい?」
「はい」
ルカは迷いなく頷く。
「もう、また泣いてる」
「え、あれ?」
ふと頬に触れてみると温かい雨が幾筋も濡らしていた。
「なんでだろ」
「ふふふっ、ルカちゃんったら泣き虫さんなんだから」
「ふえ、そんな」
反論しようとしてまた涙をこぼすルカの頬を虹の瀬はそっとハンカチで拭った。
「あ、ありがとうございましゅ」
「うーん、さすがにシランくんがそろそろ可哀想になってきたからね」
虹の瀬が示した方向を見ると、シランは子どもたちにこれでもかというほどからかわれていた。怒ったり、どぎまぎしたりと忙しそうだ。
「シラン兄がルカ姉泣かしたーって、みんな面白がるのよ。普段あんまり感情的にならないシランくんがむきになったりするのが新鮮で面白いんでしょうね。ルカちゃんのこととなると、譲らないから」
「えっ、そうなんですか?」
呆気にとられるルカに。
「本気でシランくんが可哀想だわ……」
本格的に憐れむ虹の瀬。
けれど一瞬の後、その表情に悲しげなものが滲む。
「本当にあなたたちが、幸せになれる世界だったらよかったのにね」
……ルカたちが拾われっ子であることを暗に指しているのだろうか。
そう感じたルカは、すかさず反論する。
「何を言うんですか、先生。わたしたちは充分幸せですよ。わたしもシランもいいお父さんとお母さんに恵まれました。それに、先生に拾ってもらえなかったら、シランにも、他の子たちにも出会えませんでした。先生にも、会えませんでした。だから、先生には感謝してもし足りません。本当に今、幸せなんです」
ルカの笑顔に虹の瀬もくすりと笑みを返す。
「なんだか、お嫁さんに行く娘みたいね」
「な!」
真っ赤になるルカ。その姿を見て、虹の瀬は笑みを深める。
「せ、先生、からかわないでください!!」
「あら、シランくんとならお似合いよ。……でも」
虹の瀬はふとシランの方を見る。遠くを見るような眼差しだった。
「もうすぐ……だからね」
「え? 何がですか?」
ルカが聞き返すが、虹の瀬は曖昧に笑むだけ。
「ルカ姉! こっち来てよ。一緒に食べよう!」
「ケーキ美味しいよ」
「おいこら何主役差し置いてケーキ食ってんだ」
「えー、いいじゃん。シラン兄ちゃんだってさっきサラダ食べてた」
「サラダはいいだろ、サラダは!」
「女の子には野菜が大切なんだよー?」
「そうなの?」
「初めて知ったー」
「ってお前もかい!」
そんなシランと子どもたちの輪の中にルカも入っていくのだった。




