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七つの子  作者: 九JACK
哀の章
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哀の章-5

 最初に幸せな日々から真っ暗な不幸せに引きずり出されたのは、虹の瀬だった。

 子ども好きなため、保育士になろうと勉強していた彼女が倒れた。

 医師から告げられたのは子宮がん。幸い早期のうちの発見だったのだが、手術をした結果、彼女はもう子どもを生めぬ体になった。

 助かったものの、その事実に愕然とし、夢を追うために立ち直ることすらできなくなってしまった。

 虹の瀬は保育士になるという夢を諦めた。

 そんな虹の瀬にカナタとハルカは頼み事をした。今度、自分たちの子どもが生まれるんだ、君が育ててくれないか? と。

 カナタとハルカは入籍していた。病気がちなハルカは家事を、カナタは就職し、家庭のために働いていた。

 しかしハルカはやはり病弱なのが治らず、子どもを授かったのはいいものの、カナタ一人の稼ぎでは出産費用を払うのでいっぱいいっぱいで、その後のことをできる保証がないとのこと。

 ハルカが病弱なのは虹の瀬も昔から知っていた。カナタも就職してから数ヶ月で少し痩せた気がする。

 故に、虹の瀬は引き受けることにした。何と言っても幼なじみの頼みだし、子どもが好きなのは変わらない。

 それをきっかけに虹の瀬は自分のことから立ち直った。

 カナタとハルカの間にはそれから何人か子どもが生まれた。年子が生まれたり、未熟児だったり、双子だったり……様々な理由で彼らは子育てが困難だと言った。事実、見るたびにカナタやハルカは痩せこけていたり、顔にしわや隈が増えたりと不健康なのがあからさまに見てとれるようになった。

 子どもたちを預かっていくうち、カナタまでが病気がちになり、ハルカは精神まで病んでしまった。

 それでも六人もの子どもに彼らは恵まれた。二人共、多くの子に恵まれたことは大変喜んでいた。

 しかし、七人目が生まれる前、カナタが亡くなった。

 それから全てがおかしくなった。いや──おかしくなるとカナタもハルカもわかっていたのだろう。当然のように最後の子どもも虹の瀬が育ててくれるように、と頼んだ。

 カナタは死に、ハルカは狂った。

 精神病院に入院していたハルカは夜な夜な病室を抜け出し、一人でカナタを探し歩くようになったという。

 それをカナタの母親──加賀美るゐが心配し、ハルカの持病の方が落ち着いてから、自宅の隣に引っ越させ、その生活を見守るようになった。


「加賀美のおばあさんが」

「ええ。るゐおばあちゃんには私も小さいときからよくお世話になっていたの。でも、カナタとハルカの最後の子どもを預かってから、私もここの仕事にかかりきりになってしまって、しばらく顔を見せに行けないでいたわ。さっき行ってきたのは、そのるゐおばあちゃんのところよ。カナタのお線香つけに行ったの」

 虹の瀬の微笑みルカがふっと笑みを消す。

「何年も行けなくてね。子どもたちを会わせてあげたかった。もうみんな、"虹の瀬孤児院(ここ)"を出てばらばらになってしまったから……まさか、あんな形で()()()()()()()この町に戻ってくることになるとは思ってなかった」

 虹の瀬の言葉にルカは引っ掛かりを覚える。"七人兄弟みんな"──それはつまり、七人兄弟のまだ生きている一人がこの町にいるということ?

「そうですね。どういう因果か、みんなこの町にいた」

 シランが全てを悟っているような口振りで告げる。

 虹の瀬が悲しげな眼差しで空を見つめ、シランに返す。

「ハルカが呼んだのかもしれない。ルカちゃんは知ってる? この町で不審死を遂げた六人はみんな加賀美カナタと染崎ハルカの子どもだったの。けれどね、もっと重大なことが不審死事件よりも先に起こっていたのよ」

「……え?」

 その発言を予想していなかったらしく、シランが珍しく目を丸くした。

 虹の瀬が告げたのは。

「ハルカは二月に既に、亡くなっていたのよ。……自ら命を断って」




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