哀の章-4
「このお兄さんって何年か前に生染小学校を卒業した××さんですよね」
「あら、ルカちゃんよく覚えてたわね」
「あ、この××さんって、転校しちゃった……」
「そうよ。ねぇ、ルカちゃん」
「なんですか?」
和やかに微笑む虹の瀬にルカも穏やかに応じた。
「もしかして、ハルカとカナタの話、読んだ?」
「え……」
虹の瀬からの思いがけない一言にルカは固まる。否定しようにも、既に答えは態度に出ていた。
虹の瀬は微笑んだまま、いいのよ、と言う。
「私は捨てられた子や身寄りのない子を育て親が見つかるまで預かっているの。この仕事を誇りに思っているわ。捨てられてしまう子どもがいるのは悲しいことだけれどね。
ルカちゃんがどんな形でも、興味を持ってくれて嬉しいわ。だから、お話しします。私の大切な友達と」
そこで一旦言葉を区切り、虹の瀬は扉の方を見る。こんこん、とノックする者があった。
どうぞ、という虹の瀬の声に応じて現れたのは、シランだった。
「準備ができたので、呼びに来ました」
「え? 準備ってな」
「ちょうどよかったわ。シランくん。ルカちゃんと一緒に大事なお話を聞いてくれる?」
ルカの疑問を遮り、虹の瀬は唐突なことを言う。シランも意を汲みきれなかったらしく、頭上にクエスチョンマークを浮かべながらも頷いた。
「この際だから、私の知っていることを全て話すわ。"七人兄弟"のこと。その実の親である加賀美カナタと染崎ハルカのことを。──きっとこれが、あなたたちの知りたいことに繋がるでしょう?」
虹の瀬の一言にシランがはっとする。ルカには何のことかさっぱりわからない。けれど他両者の間では暗黙の了解が成り立っているようで、シランは迷う素振りもなく、「お願いします」と虹の瀬を仰いだ。
虹の瀬は瞑目する。遥か彼方の記憶を探るように。
虹の瀬ソラがその二人に出会ったのは、まだ小学生になる前──今からもう三十年以上経つだろうか。
虹の瀬は親の仕事の都合で各地を転々としていた。ろくに友達もいない。
比灘町。町にしては人口が多く、賑わっているこの町で、虹の瀬は加賀美カナタと染崎ハルカに出会った。
カナタとハルカはちょうど、ミドリとミズキのような関係だった。お隣さんで幼なじみのとても仲良しな友達。
久々に長く滞在することができるということで、一人が寂しかった虹の瀬はすぐ二人と仲良くなった。
住み心地のよい町に両親が定住を決め、友達との別れという不安のなくなった虹の瀬は思う存分二人と遊んだ。
小学校、中学、高校、三人はいつも一緒だった。さすがに大学はそれぞれ志すものが違ったため、ばらばらになったが。
それでも三人は変わらず、仲良しだった。
「おとぎ話みたいなご都合主義のお話でしょう? でもね、稀に現実になるものなのよ。大したいさかいもなく、みんな、仲良しのまま、大人になった」




