哀の章-3
最初は純粋に湧いた興味から読み進めていたルカだが、ページをめくる手が恐怖に震えていた。
漠然と抱いていた予感。それが当たっている。
嬉しくはない。けれど、読むのをやめるわけにはいかなかった。
知らなければならない。今までにできた予測が正しいものであるか。そしてまだ予測できていない"七人兄弟"の"双子兄弟の弟"に該当する人物──"七つの子"事件の次の犠牲者を、知らねば。
これ以上、人に死んでほしくない。
ルカはゆらりとめくったページを反対に落とす──
──年十二月──日
とうこちゃん
三女。カナタとハルカにまた子どもが生まれた。
名前の由来は教えてもらえず、というか、今回はかなりの難産の上にとうこちゃんは未熟児だったようで……カナタもハルカも精神的に追い詰められた出産となった。
その上、このとうこちゃんは誰にもなつかない。両親であるカナタやハルカにも怯え、だからといって他の誰かが大丈夫というわけでもなく、ずっとかたかたと震えながら泣く子だ。おむつでもミルクでもなく、遊んでほしいとかでもなく……というかあやそうと近づくだけで泣かれるので、正直、どうしたものやら。
二歳。どうにかこうにかちゃんと育った。ゆっくりではあるが意外と長距離を歩けるようになった。人見知りなのか、未だに人を見ると怖がる。あまり泣かなくはなったけど。
普通にしていれば、物静かで大人しい子。それに賢い。
そう思って目を離したら、何故か彼女は職員室に忍び込み、職員の眼鏡を盗んだ。これもまた何故かわからないが、眼鏡をかけて満足そう。
だめだよ、と注意したが、眼鏡をとろうとするといやいやとした。仕方なくそのまま様子を見ていたら、普段より人見知りの癖が和らいでいた。
もしかして目が悪くてよく見えないから人を怖がっていたのだろうかと思い、度を合わせようか持ちかけると、眼鏡をとられた職員が伊達眼鏡だと言った。
目が悪いわけではない?
とりあえず、落ち着くのなら、とサイズの合う可愛い伊達眼鏡をプレゼント。
三歳。東雲さんという方がいらした。多ヶ竹市有数の名家の方だ。とうこちゃんを気に入ったらしく、引き取っていった。
奇妙な経緯の子どもだ。
しかし、似たような話をどこかで聞いたような……とルカが考えていると、玄関の方で「ただいま」という声がした虹の瀬が帰ってきたのだ。
私室で勝手に業務日誌のようなものを読んでしまったためにルカは慌てふためく。慌てたところでどうにもならないのだが……
と、そうしているうちに虹の瀬が部屋に入ってきた。
「あら、ルカちゃん。ここに来てたのね」
「わ、ああああの、勝手に、すみません!!」
わたわたと手を振り思いっきり頭を下げ、がんっとテーブルにぶつけるルカ。必死な彼女を虹の瀬が責めることはなかった。
「いいんですよ。私がいいと言ったのだし、遠慮しないで。あら」
虹の瀬はルカの手にあるノートに目を留める。
「日誌、読んでたの?」
「あっ、これは、その……院長先生のお仕事に、興味があって」
「それは嬉しいわ。ルカちゃん、どの辺りを読んでいたの?」
「ええと」
ルカはなんとなく、読み込んでいたミドリやアカネたちのことではなく、他の子どものエピソードを示して、詳しい話を聞いた。
正直、ルカは虹の瀬が来たことにほっとしたのだ。
話をそらせたことに、ほっとしていた。
先を知るのが、怖かったから。




