哀の章-2
ここからちょっと日誌の話が続きます。
──年五月──日
みどりくん
新緑の美しい季節に生まれたから"ミドリ"という名前にしようとカナタとハルカが言っていた。そこで私には思いがけない重要な役割が与えられた。
字をあててほしいと。
少し悩んで、よくある"美土里"という字をあてることにした。
こんな重大な役割を私に任せるなんて、いくら幼なじみでも、と思ったけれど、「この先孤児院を続けていけば、名前のついていない赤ん坊を拾うこともあるかもしれないだろう?」と言われた。なるほど、その予行だと思えば。
そんなみどりくんは私の孤児院の子ども第一号。
これからここに来た子どもたちのことを簡単に帳簿にまとめる。
みどりくんはカナタから子育てが困難ということで預かることになった。ハルカは体調が安定しないらしい。育てられないため、里子に出してもいいとのこと。
六歳。なんだかカナタの小さい頃にそっくりになってきた。
性格は生真面目で責任感が強く、他の子どもたちのまとめ役になっている。
八歳。八嶋夫妻に引き取られる。
一番目の子どもが手を離れた。少し感慨深い。
八嶋美土里。コンビニで亡くなった大学生店員の名だ。
まさかあの人も"虹の瀬孤児院"の出身だったとは。
けれど彼は捨てられたわけではなく、どうやら虹の瀬が知り合いから引き取った子どもだったらしい。
カナタにハルカ……? その二つの名に何か引っ掛かるものを感じながら、ルカはページをめくっていく。
冒頭の宣言どおり、そこにはここに引き取られた行き場のない子どもたちのことが書かれていた。大抵はいつ、どういう経緯で引き取ったか、誰が里親になったかというものだった。
しばらく読み進めると、また見慣れた名前に辿り着く。
──年九月──日
あかねちゃん
カナタとハルカの第二子。今度は女の子。綺麗な夕暮れ時に生まれたらしく、"アカネ"と名付けたらしい。素敵な名前だと思う。
それはいいんだけど。また今回も当て字を頼まれた。
普通に空の茜色の"茜"でいいと思うけど……
さて、そんなあかねちゃんはさっきも言ったとおりカナタとハルカの二番目。育てようとしたが、三人目を妊娠。おめでたい。けれどやはり育児には手が回らないため、こちらで引き取ることに。
この子もカナタに似ている。
とても元気で明るく、活発な子。みどりくんを振り回すトラブルメーカー。よく花瓶やお皿を割っちゃうお転婆さん。
五歳。時田夫妻に引き取られる。
その数ページ先には。
──年五月──日
みずきちゃん
カナタとハルカの三番目。あかねちゃんの年子の妹です。
今がハナミズキの時期ということで、花に肖って名前を決めたようですが、また私に字をパスって。
花水木の"水木"でどうだろうと思ったけれど、名前にするには変な字。女の子だから、もっとお洒落な字の方がいいかな。
そうして試行錯誤を繰り返した結果"瑞城"に決まった。
三兄弟には兄弟だということは教えていないけれど、みずきちゃん、あかねちゃん、みどりくんの三人組はいつも仲良し。
ただ、父のカナタ似な上二人に対して、みずきちゃんは母のハルカにそっくり。これは将来美人さんになる。
大きくなったらみどりくんのお嫁さんになるー、なんて言っちゃうおませさん。
四歳。あかねちゃんと同時期に朝原夫妻という方に引き取られていった。




